「未来共創 sumika7.0」 制作ストーリー
遠い未来では、何を「豊かな暮らし」と感じているのだろうか?
LIXILは未来共創計画を立ち上げ、SFプロトタイピングの手法を用いて
誰も見たことのない「豊かな暮らし」の探求に挑みました。
SF思考で未来の暮らしのアイデアを公募した「FUTURE LIFE CREATIVE AWARD」では
伊島 糸雨 氏の作品「ヴィタ・アルモニカ」が最優秀賞を受賞。
LIXILと伊島 糸雨 氏による共創プログラムが始動しました。
さまざまな角度からのディスカッションを経て
「ヴィタ・アルモニカ」作者の持つ世界観とLIXILが想像する「豊かな暮らし」を融合。
そして、ひとつの未来のカタチを描いたコンセプトムービー「未来共創 sumika7.0」が完成しました。
舞台は数百年後の地球。
豊かな暮らしは、人間本位ではなく、地球や自然との共生のもとに実現し、
それぞれが相互に影響し合いながら循環している。
そこにはもはや、人間が製品を消費して廃棄する生活は存在せず、
有機物と無機物が一体となって循環する中で、
人間も、音を通じて、自然や住宅と相互にコミュニケーションを取り合いながら暮らしている—。
「生産→消費→廃棄」という非持続的な概念を克服し、
自然(有機物)と住宅(無機物)が一体となり、時を超えて循環し続ける世界の中で、
人類と住まいを含む環境全体が豊かに交感・共生し合う、
私たちが目指すべきひとつの理想像を描きました。
また、伊島 糸雨 氏により、ムービーでは描ききれない部分をノベライズ。
はるか未来の「豊かな暮らし」を想像しながら作品をお楽しみください。
逓帰律鳴
―未来共創 sumika7.0―
はじめに歌がありました。それゆえ、歌は言葉と同一でした。
薄明の陽が息吹を誘い、繭の揺り籠を包むヴェールは光の色に解けていきます。赤は遠く、青は近く、境界を塗る白と紫紺は都市を照らす黎明です。生命の泡沫は濡れた皮膚に空を写し、緑陰にそよぐ風の筋をなぞって、揺蕩う律鳴が生活の遺構をひっそりと満たしていきます。
のぞまれる明日の景色は水面の中に鏡を潜め、言葉や祈りと同じように、意志を生かし、呼吸を育て、生命の都市を生み出しました。
すべての営みには音律があります。手を伸ばす。空に触れる。ざわめきとせせらぎに耳を傾け、澄み渡る夜気の香りで胸を満たす——臓腑の蠢きも木々の囁きも、折り重なる機構としてつながっています。呼吸を合わせれば、声は容を思い出すでしょう。歌は心に宿ります。胸の内の奥深く、いちばん柔らかな、魂の住処に。
都市の生命が目蓋を開くほどに、流れゆく旋律は彩りを増していきます。もっと豊かに、もっと心地よく。心が躍るように、身体も自然と跳ねるように。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
こぼれる音が都市を動かし、壁を、屋根を、床を、崩し溶かして再生させます。朝日を透かした草葉の影絵が真白い通りに漣を生み、泡沫は艶やかに煌めいています。折り重なる現在は生活の印象となって、交わるすべての言葉は生命の鼓動とつながりました。挨拶を交わす。声に応える。人と、街と、草木と世界に境界はないのだと、誰もが早くに悟っていました。発した言葉には歌があり、微かに聞こえる鈴の音も、きっと誰かの歌なのでしょう。
水溜まりには波紋が浮かび、解けた糸が像を結ぶと、夢のように蝶が羽ばたきました。落ちる日の残照を追い、ささやかな願いを歌に込めたら、都市はひとつの自鳴琴です。自発される無数の音律が、人に可能なすべての歌が宝のように納められ、吹き抜ける時間の風が、舞い上がる青葉を燃やしていきます。灰となり塵へと変わり、いつかどこかで、大地に還って芽生えるのです。
光は遠く地平へと去り、熾火の色と夜の帷は、溶け混ざる宙の彼方で星を呼びます。天球を巡る小さな輝きたちは、街の灯りを写すようです。
繭の中で夜空を見上げ、灯火を消し目蓋を閉じます。暗闇は時に不安を誘い、冷たい孤独と底なしの虚ろを想像させます。けれど、恐れることはありません。墓標は祈りの寄る辺となって、誰かが築いたその弔いは、繰り返される夜明けのように、巡り廻って明日へと続くでしょうから。
呼吸を合わせると、どこからか歌が聞こえてきます。
だから、応えるように小さく微笑むのです。
還るための道行きが、祝福に満ちてあると願って。
未来とは、現在ここから縒り合う細かな糸の集合です。
可能性をはらみ、それゆえ無数に重なり合った、永遠に真白い画布です。
私たちは憶えています。
かつて、都市はひとつの強固な現実でした。個々の生活、その微視的な集合が巨大質量の鋳型をつくり、語られる日々の印象は街々の力動として、営為をつなぐまばらな糸が、伸ばされた手を抗い難く曳航します。そこには不確かな自由がありました。すべての意志は、都市に住まうすべての意志に対して闘争し、緩やかな接続は心臓を縛める磔の骨です。喉を掻く手は滑り落ち、茫漠とした光の明滅に溺れています。
私たちは知っています。
永遠はありません。生命はいつしか終わりを迎え、都市は栄光の果てに沈黙します。時間とは無数の断絶によって接続された絶え間ない塵芥です。小世界は祈りと願いによって建造され、移ろい巡る季節の色は、偏在する終末と先に続く新たな萌芽の抽象でした。いつか至る明日の景色は、黄昏と夜によって先導されます。
私たちは悟っています。
舞台の幕が降りるとき、私たちは静かに席を立ちます。手放しただけの身軽さで、いずこかへと歩いていきます。いつか、遠い遠い先のどこかで、空いた椅子には別の誰かが座るでしょう。そしてその双眸で世界を見つめ、自らの手で選ぶはずです。
未来を。歌と呼応する、生命の営みを。
だからこそ、私たちは期待しています。歴史にすら残らない数多の滅びは、しかし絶望を示すものではないのだと。すべては自発の証左であり——
遥か彼方に私たちの姿が見えずとも、確かな希望になり得るのだと。
FUTURE LIFE CREATIVE
AWARDとは?
LIXILは、誰も見たことのない世界を想像し、その世界での「豊かな暮らし」とは何かを社外のみなさまと探求していくことを目指して未来共創計画を立ち上げました。
たとえば、無機物と有機物が融合し、持続可能な社会が成り立つ未来が訪れたとき、人々の暮らしはどのように変化し、住まいはどのような意味を持つ場所になるのでしょうか?
今回は、SFを通じて思考を拡張させるSFプロトタイピングの手法を用いて、未来に向けたイノベーションの可能性を探求しています。SFの社会実装をミッションとするアノン株式会社をパートナーに、未来の住まいについて描いた2篇のSF小説を公開するとともに、生活者のみなさまとアイデアを募り未来を共創する「FUTURE LIFE CREATIVE AWARD」を開催します。
未来の暮らしを考える
自然環境を破壊しながら成長を続けるか、成長を諦めて持続可能性を取るか。
そんなジレンマを超えた未来こそが、わたしたちが目指す「豊かな暮らし」ではないでしょうか?
わたしたちの生活に必要なもののほとんどは、すでに自然界に潜んでいた、とするならば、例えば、家が生きている未来——植物のように酸素や水を生み出す家と共生する未来も当たり前になるかもしれない。
そんな未来をイメージして、思い切って発想してみてください。
受賞作品発表
FUTURE LIFE CREATIVE AWARDへのたくさんのご応募ありがとうございました。
厳正な審査の結果、最優秀賞1作、LIXIL賞2作、アノン賞1作、入選3作の合計7作を決定しましたのでご紹介させていただきます。
※素晴らしい作品が多かったため、未来の豊かな暮らしを描いたアイデアを評価する「LIXIL賞」を一枠増設し、さらにSF作品としての完成度を評価する「アノン賞」を新設いたしました。
- 作品名
- ヴィタ・アルモニカ
- ペンネーム
- 伊島 糸雨
- 作品概要
- 研究者の明彷静は、音を通じて生態系を調整するシステム〈〈音律性生命環境〉〉を用いた都市開発を推進していたが、計画は頓挫、感染症の流行で都市自体も放棄される。7年後、見捨てられた都市で緑地が拡大していることを知った明彷静は、その行く末を見届けるべく、観測員として帰郷を決意する。
- 審査員評価コメント
- 人類が去った後の都市と地球の関係が描かれていて、“都市の畳み方”を問う作品でした。使われなくなった建物は廃墟になるという固定観念を覆し、現代の日本で社会課題となっている空き家問題などに対する示唆も読み取れました。文芸作品として見ても完成度が高く、住まいや都市とのコミュニケーション方法としての“音”というインターフェースの選び方が美しいなど、共創プロジェクトでアイデアを深めていく余地に期待して、最優秀賞に選出いたしました。
- 作品名
- 海月の降る空、泳ぐ空
- ペンネーム
- 貫ク 藁矢
- 作品概要
- ユーザーとその住環境を反映した仮想生命・LI*ILを育成可能なオンラインゲーム「*」。
筏型の海上都市で暮らす「雲」と、火星から地球へ向かう船に乗る「海月」は、「*」で互いにすれ違いながらも交流を重ねていく。 - 審査員評価コメント
- バーチャルな世界とリアルな世界がつながって相互作用が生まれる関係性や、住居が離合集散して街を作っていく発想が魅力的でした。さらに、この街の仕組みがあることで、住宅を起点に家族のあり方も変わっていく可能性を想像させる作品でした。現代、近未来、遠未来の技術が整合性を保ちながら描かれている点も、SF作品として高評価につながりました。
- 作品名
- 循環する都市
- ペンネーム
- 神殿 真数
- 作品概要
- 植物の特性を帯びた人工素材・樹性高分子の普及により、自然エネルギーをベースとした循環型の生活が実現した24世紀。
人々は高さ1.7kmにおよぶ巨大な階層都市に暮らし、資源を共有し、家族ではなく世代を単位とした社会を築いていた。そんな中、新しい世代が生まれる換層期を目前に、シェーナは自分の社会における役割を決めかねていた。 - 審査員評価コメント
- 五層のツリーハウスというコアアイデアを突き詰めたことで、強烈なビジュアルを想起させる力がありました。自然が持つ循環のサイクルを住まいや都市に当てはめた時に、社会やコミュニティがどのように変化するのか、誰も見たことがない未来の暮らしが描かれていました。このような技術を生み出してみたいという意欲を掻き立てられた点も評価につながりました。
- 作品名
- 有機住宅は笑わない
- ペンネーム
- 笹田 ケンゴ
- 作品概要
- 宇宙からやってきた生物・ハウススネイルに共生することが一般的な住まいの在り方となった世界。ハウススネイルのケアを専門とする住医師の水野は、依頼主である小山内のもとを訪れる。ウイルスに侵されたハウススネイルを救うために、高額の治療が必要だと告げられた小山内が下す決断とは。
- 審査員評価コメント
- 住居が生きている設定の作品は多数ありましたが、生きているからこそ、人と住居は対等な関係になることや、一緒に暮らしを楽しみ、時には住居と面倒なコミュニケーションやケアもしながら、ペットのように心理的につながる新しい世界を提示していただきました。家と人との関係性を見つめ直し、住む場所を愛する素晴らしさを実感させてくれた作品でした。
2名のSF作家が描いた未来のストーリーを読んで、
イメ―ジを広げよう
持続可能の⼟塊
“家が生きている未来”では、温度や湿度を自由に管理し、酸素を生み出すことも可能になった。リフォームすら不要になり、絶えず再生することで新築同然の住まいを手にしたはずだった。そんなある日、土壌省から家とのエンディングを告げに1人の女性がやってくる。32年間の思い出がつまった家は、このままなくなってしまうのだろうか ――――
27歳。愛知出身。急性リンパ性白血病寛解後、日本大学芸術学部文芸学科に入学。今も在学中。「スター・シェイカー」で第9回ハヤカワSFコンテスト大賞、「きみは雪をみることができない」で第28回電撃小説大賞メディアワークス賞を受賞。インドア人間でモンハンばかりやっています。音楽はsasakureUKとずとまよが好き。4年伸ばしていた髪を切ったらドライヤーの時間が5分の1になって、超SDGsです。
我が家の壁内細菌フローラ
遺伝子を設計された微生物群によって、間取りも変えられる家が当たり前になった時代。私は、実家で家事をしながら妹と電話していた。同じ家に住み続け、ライフスタイルの変化に応じて住居をカスタマイズしてきた私と、自由奔放に世界を旅して次々と住む場所を変えても、育った家の環境を再現したがる妹。私たちって、やっぱり姉妹なんだな。
SF作家。福島県生まれ。分子生物学系の研究職を経て、2016年『横浜駅SF』(カドカワBOOKS)で小説家デビュー。2019年に大学を退職し現在は専業作家。小説に『人間たちの話』(ハヤカワ文庫JA)『まず牛を球とします。』(河出書房新社)他、漫画原作『オートマン』(講談社)、エッセイ『SF作家の地球旅行記』(産業編集センター)など。
応募概要
未来の「豊かな暮らし」を探求する
FUTURE LIFE CREATIVE AWARDを開催します。
最優秀賞に選ばれた方には、
特典としてLIXILとともに受賞アイデアの世界をさらに探求し、
具現化するプログラムをご用意しております。
上記にあります3つのSTEPをご確認の上、
『誰も見たことのない「豊かな暮らし」』をテーマにした
大胆な発想によるアイデアのご応募をお待ちしております。
- 名称
- FUTURE LIFE CREATIVE AWARD
- テーマ
- STEP①「未来の暮らし」や、STEP②「小説」を読んで閃いた『誰も見たことのない「豊かな暮らし」』
- 賞
- 最優秀賞 1作品/賞金 30万円+LIXILとの共創プログラム
LIXIL賞 1作品/賞金 10万円 - 応募期間
- 2023年2月15日(水) - 3月14日(火)
- 参加資格
- プロアマ問わず
※未成年の方は予め保護者の同意を得たうえでご応募ください。 - 作品形式
- 小説・絵画・イラスト・漫画・アニメーション・彫刻・インスタレーションなど、アイデアの表現方法やサイズは自由
- 提出物
- Word・JPG・txt・PDF、MP4などの各種データ形式
- 主催
- 株式会社LIXIL
※協力:アノン株式会社
- デジタル化が難しいアナログ作品の場合、原本のご送付は原則不要です。作品を撮影した画像(最低4枚以上)をご応募ください。なお、詳細の審査が必要と判断した場合には、追加資料のご送付をお願いする場合がございます。
- 提出物のデータは、コピーできる状態で、1ファイルにつき100MB以下でご用意ください。
- 既発表作品の応募も可能です。既発表作品の場合、過去にエントリーされた他のアワードやコンテストなどに、応募の制限が無いかご確認のうえご応募ください。
最優秀賞特典
最優秀賞受賞者は、特典としてアワード後にLIXILとの共創プログラムにご参加いただきます。プログラムでは、LIXIL社員と複数回のディスカッションを行いながら模型(予定)を制作し、作品世界の具現化を目指します。
※ 最優秀賞にはディスカッション参加が必須となります。
スケジュール
※予定が変更になる可能性がございます。
審査員
-
羽賀 豊
LIXIL Housing Technology
ビジネスインキュベーションセンター
センター長2014年、株式会社LIXIL入社。ハウジングテクノロジー事業のプロダクトデザインやUIデザインを担うデザイン部門責任者として活動しながら、2019年にビジネスインキュベーションセンターの企画と設立を行い、新規事業立上げを推進中。21年4月よりハイエンドブランド『NODEA』を発足し、事業責任者として運営にも携わる。
-
浅野 靖司
LIXIL Water Technology Japan
事業企画部 部長1990年、株式会社INAXに入社。2008年にトイレ事業部商品部長、2015年に水栓事業部 事業部長を経て、2017年LWT Japan新規事業推進部を創部。クラウドファンディングや異業種との協業、新業界への展開など、新たな取り組みにより、『オンデマンドエコカラット』や泡シャワー『KINUAMI U』などの新規事業を複数立上げ。エンドユーザーへのスピーディな価値提供の実現に取り組んでいる。
-
樋口 恭介
SF作家
anon.inc CSFO
(Chief Science Fiction Officer)『構造素子』で第5回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞。『未来は予測するものではなく創造するものである』で第4回八重洲本大賞を受賞。編著『異常論文』が『SFが読みたい!2022年版』の国内SFランキング第1位。その他の著書に『すべて名もなき未来』『眼を開けたまま夢を見る』『生活の印象』。
-
大澤 博隆
慶應義塾大学理工学部
管理工学科准教授慶應義塾大学理工学部准教授および筑波大学システム情報系客員准教授、HAI研主宰者。ヒューマンエージェントインタラクション、人工知能の研究に幅広く従事。共著として「SFプロトタイピング: SFからイノベーションを生み出す新戦略」など。監修として「SF思考 ビジネスと自分の未来を考えるスキル」など。人工知能学会、情報処理学会、日本認知科学会、ACM等会員、日本SF作家クラブ第21代会長。博士(工学)。
よくある質問
- エントリー費を教えてください。
- 無料です。
- 個人名を出したくないのですが、公表されますか?
- 手続き上、本名をお伺いしますが、「ペンネーム欄」にご記入いただければ個人名を対外的に公表することはありません。
- 作品のボリュームに制限はありますか?
- 制限はありませんが、小説なら6000字程度、漫画ならA4で30ページ程度、アニメーションなら5分程度に収まるボリュームになるようご調整いただけますと幸いです。
- 複数の作品を応募できますか?
- 応募は一人一作品までと致します。
- グループで応募する場合、全員登録する必要がありますか?
- 代表者の方だけで構いません。応募フォームの「プロフィール欄」にグループのメンバーの方のお名前を入力してください。
- 作品のデータが100MB以上になりますが、どうすればよいですか?
- オンラインストレージにアップロードしていただき、ダウンロードできるURLを応募フォームの「オンラインストレージURL記入欄」にご入力ください。
- 審査結果は、どのように発表されますか?
- 受賞者には個別にご連絡させていただき、当サイトで発表いたします。受賞可否や受賞結果等に関するお問い合わせについては、個別でのご対応は致しかねますのでご了承ください。
作品応募は2023年3月14日をもって
終了させて頂きました。
たくさんのご応募ありがとうございました。
審査員コメント