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title: 【受賞作品発表】 LIXIL 未来共創計画｜FUTURE LIFE CREATIVE AWARD
description: 【受賞作品発表】 誰も見たことのない「豊かな暮らし」を探求するLIXILのイノベーションプロジェクト「未来共創計画」。2023年2月15日から3月14日まで開催された、アイデアコンテスト「FUTURE LIFE CREATIVE AWARD」の結果を発表中。最優秀賞受賞者との共創プロジェクトもいよいよ始動します。
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【受賞作品発表】 LIXIL 未来共創計画｜FUTURE LIFE CREATIVE AWARD

動画を再生できる環境ではありません。

動画を再生できる環境ではありません。

![未来共創計画](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/mv_logo-3.png) [![採用情報](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/mv_recruit.png) ![採用情報](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/mv_recruit_sp.png) ](https://www.lixil.co.jp/corporate/recruit/)

# ![LIXIL × 最優秀賞受賞者 伊島 糸雨 共創プログラム](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/mv_txt1.png) ![未来共創](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/mv_txt2.png)

[![SCROLL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/mv_scroll_icon.png) ](https://landing.lixil.com/futurelifecreativeaward#movie)

## 「未来共創　sumika7.0」 制作ストーリー

遠い未来では、何を「豊かな暮らし」と感じているのだろうか？  
LIXILは未来共創計画を立ち上げ、SFプロトタイピングの手法を用いて  
誰も見たことのない「豊かな暮らし」の探求に挑みました。

SF思考で未来の暮らしのアイデアを公募した「FUTURE LIFE CREATIVE AWARD」では  
伊島 糸雨（イトウ シウ） 氏の作品「ヴィタ・アルモニカ」が最優秀賞を受賞。  
LIXILと伊島 糸雨（イトウ シウ） 氏による共創プログラムが始動しました。

さまざまな角度からのディスカッションを経て  
「ヴィタ・アルモニカ」作者の持つ世界観とLIXILが想像する「豊かな暮らし」を融合。  
そして、ひとつの未来のカタチを描いたコンセプトムービー「未来共創　sumika7.0」が完成しました。

舞台は数百年後の地球。  
豊かな暮らしは、人間本位ではなく、地球や自然との共生のもとに実現し、  
それぞれが相互に影響し合いながら循環している。  
そこにはもはや、人間が製品を消費して廃棄する生活は存在せず、  
有機物と無機物が一体となって循環する中で、  
人間も、音を通じて、自然や住宅と相互にコミュニケーションを取り合いながら暮らしている—。

「生産→消費→廃棄」という非持続的な概念を克服し、  
自然（有機物）と住宅（無機物）が一体となり、時を超えて循環し続ける世界の中で、  
人類と住まいを含む環境全体が豊かに交感・共生し合う、  
私たちが目指すべきひとつの理想像を描きました。

また、伊島 糸雨（イトウ シウ） 氏により、ムービーでは描ききれない部分をノベライズ。

はるか未来の「豊かな暮らし」を想像しながら作品をお楽しみください。

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LIXIL デザインセンター 蒲原 充

![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/story_icon1.png)

未来はどうなると嬉しいか？を議論し、バックキャスティングする形でひとつのストーリーを描きました。短い動画では全てを描き切れませんでしたが、LIXILが取り組んで行く未来の住まいのひとつを楽しんでいただければ幸いです。

原作者 伊島 糸雨 [![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/profile_icon1.png)](https://twitter.com/shiu_itoh) [![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/profile_icon2.png)](https://sites.google.com/view/shiuitoh/home)

![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/story_icon2.png)

未来と変容は不可分で、だからこそ、興り、廃れ、滅びた後にも芽吹くと信じることができるのならば、苦難の先にも希望は残るはずです。音によって共鳴し、循環の一部となり、都市と共に再生してゆく光景を、今ここで空想できれば幸いです。

![NOVEL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/story_title.png) ![NOVEL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/story_title_sp.png)

## 逓帰律鳴（ていきりつめい）　 ―未来共創 sumika7.0―

著者伊島 糸雨（イトウ シウ）

　はじめに歌がありました。それゆえ、歌は言葉と同一でした。  
 　薄明の陽が息吹を誘い、繭の揺り籠を包むヴェールは光の色に解（ほど）けていきます。赤は遠く、青は近く、境界を塗る白と紫紺は都市（まち）を照らす黎明です。生命（いのち）の泡沫（あわ）は濡れた皮膚（はだ）に空を写し、緑陰にそよぐ風の筋をなぞって、揺蕩（たゆた）う律鳴（りつめい）が生活の遺構をひっそりと満たしていきます。  
 　のぞまれる明日（あす）の景色は水面（みなも）の中に鏡を潜（ひそ）め、言葉や祈りと同じように、意志を生かし、呼吸を育て、生命（いのち）の都市（まち）を生み出しました。  
 　すべての営みには音律（リズム）があります。手を伸ばす。空に触れる。ざわめきとせせらぎに耳を傾け、澄み渡る夜気の香りで胸を満たす——臓腑の蠢きも木々の囁きも、折り重なる機構としてつながっています。呼吸を合わせれば、声は容（かたち）を思い出すでしょう。歌は心に宿ります。胸の内の奥深く、いちばん柔らかな、魂の住処（すみか）に。  
 　都市の生命が目蓋を開くほどに、流れゆく旋律は彩（いろど）りを増していきます。もっと豊かに、もっと心地よく。心が躍るように、身体も自然と跳ねるように。  
 　ひとつ、ふたつ、みっつ。  
 　こぼれる音が都市（まち）を動かし、壁を、屋根を、床を、崩し溶かして再生させます。朝日を透かした草葉の影絵が真白い通りに漣（さざなみ）を生み、泡沫（ほうまつ）は艶（あで）やかに煌（きら）めいています。折り重なる現在は生活の印象となって、交わるすべての言葉は生命（いのち）の鼓動とつながりました。挨拶を交わす。声に応える。人と、街と、草木と世界に境界はないのだと、誰もが早くに悟っていました。発した言葉には歌があり、微かに聞こえる鈴の音も、きっと誰かの歌なのでしょう。  
 　水溜まりには波紋が浮かび、解（ほど）けた糸が像を結ぶと、夢のように蝶が羽ばたきました。落ちる日の残照を追い、ささやかな願いを歌に込めたら、都市（まち）はひとつの自鳴琴（オルゴール）です。自発される無数の音律が、人に可能なすべての歌が宝のように納められ、吹き抜ける時間の風が、舞い上がる青葉を燃やしていきます。灰となり塵へと変わり、いつかどこかで、大地に還って芽生えるのです。  
 　光は遠く地平へと去り、熾火（おきび）の色と夜の帷（とばり）は、溶け混ざる宙（そら）の彼方（かなた）で星を呼びます。天球を巡る小さな輝きたちは、街の灯（あか）りを写すようです。  
 　繭の中で夜空を見上げ、灯火（ともしび）を消し目蓋を閉じます。暗闇は時に不安を誘い、冷たい孤独と底なしの虚（うつ）ろを想像させます。けれど、恐れることはありません。墓標（ぼひょう）は祈りの寄る辺となって、誰かが築いたその弔いは、繰り返される夜明けのように、巡り廻って明日へと続くでしょうから。  
 　呼吸を合わせると、どこからか歌が聞こえてきます。  
 　だから、応えるように小さく微笑むのです。  
 　還るための道行きが、祝福に満ちてあると願って。

　未来とは、現在（いま）ここから縒（よ）り合う細かな糸の集合です。  
 　可能性をはらみ、それゆえ無数に重なり合った、永遠（とわ）に真白い画布（キャンバス）です。  
 　私たちは憶えています。  
 　かつて、都市はひとつの強固な現実でした。個々の生活、その微視的な集合が巨大質量の鋳型（いがた）をつくり、語られる日々の印象は街々の力動として、営為をつなぐまばらな糸が、伸ばされた手を抗い難く曳航（えいこう）します。そこには不確かな自由がありました。すべての意志は、都市（まち）に住まうすべての意志に対して闘争し、緩やかな接続は心臓を縛める磔（はりつけ）の骨です。喉を掻く手は滑り落ち、茫漠とした光の明滅に溺れています。  
 　私たちは知っています。  
 　永遠はありません。生命はいつしか終わりを迎え、都市は栄光の果てに沈黙します。時間とは無数の断絶によって接続された絶え間ない塵芥（じんかい）です。小世界は祈りと願いによって建造され、移ろい巡る季節の色は、偏在する終末と先に続く新たな萌芽（ほうが）の抽象でした。いつか至る明日（あす）の景色は、黄昏（たそがれ）と夜によって先導されます。  
 　私たちは悟っています。  
 　舞台の幕が降りるとき、私たちは静かに席を立ちます。手放しただけの身軽さで、いずこかへと歩いていきます。いつか、遠い遠い先のどこかで、空いた椅子には別の誰かが座るでしょう。そしてその双眸で世界を見つめ、自らの手で選ぶはずです。  
 　未来を。歌（いのり）と呼応する、生命の営みを。  
 　だからこそ、私たちは期待しています。歴史にすら残らない数多の滅びは、しかし絶望を示すものではないのだと。すべては自発の証左であり——  
 　遥か彼方に私たちの姿が見えずとも、確かな希望になり得るのだと。

## ![INTRODUCITON](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/sub_title_01.png)![INTRODUCITON](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/sub_title_01_sp.png) FUTURE LIFE CREATIVE AWARDとは？

LIXILは、誰も見たことのない世界を想像し、その世界での「豊かな暮らし」とは何かを社外のみなさまと探求していくことを目指して未来共創計画を立ち上げました。

たとえば、無機物と有機物が融合し、持続可能な社会が成り立つ未来が訪れたとき、人々の暮らしはどのように変化し、住まいはどのような意味を持つ場所になるのでしょうか？

今回は、SFを通じて思考を拡張させるSFプロトタイピングの手法を用いて、未来に向けたイノベーションの可能性を探求しています。SFの社会実装をミッションとするアノン株式会社をパートナーに、未来の住まいについて描いた2篇のSF小説を公開するとともに、生活者のみなさまとアイデアを募り未来を共創する「FUTURE LIFE CREATIVE AWARD」を開催します。

## ![THINK ABOUT FUTURE LIFE](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/sub_title_02.png)![THINK ABOUT FUTURE LIFE](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/sub_title_02_sp.png) 未来の暮らしを考える

自然環境を破壊しながら成長を続けるか、成長を諦めて持続可能性を取るか。  
そんなジレンマを超えた未来こそが、わたしたちが目指す「豊かな暮らし」ではないでしょうか？

わたしたちの生活に必要なもののほとんどは、すでに自然界に潜んでいた、とするならば、例えば、家が生きている未来——植物のように酸素や水を生み出す家と共生する未来も当たり前になるかもしれない。

そんな未来をイメージして、思い切って発想してみてください。

詳細はコチラ ![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/icon_arrow1.png)

![LIXIL FUTURE LIFE CREATIVE AWARD](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/section_logo-1-1.png)

## ![AWARD WINNERS](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/fin_title.png)![AWARD WINNERS](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/fin_title_sp.png) 受賞作品発表

FUTURE LIFE CREATIVE AWARDへのたくさんのご応募ありがとうございました。  
厳正な審査の結果、最優秀賞1作、LIXIL賞2作、アノン賞1作、入選3作の合計7作を決定しましたのでご紹介させていただきます。  
※素晴らしい作品が多かったため、未来の豊かな暮らしを描いたアイデアを評価する「LIXIL賞」を一枠増設し、さらにSF作品としての完成度を評価する「アノン賞」を新設いたしました。

![最優秀賞](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/award_img1.png)

作品名

ヴィタ・アルモニカ

ペンネーム

伊島 糸雨（イトウ シウ）

作品概要

研究者の明彷静（ミン・ファンジン）は、音を通じて生態系を調整するシステム〈〈音律性生命環境（ヴィタ・アルモニカ）〉〉を用いた都市開発を推進していたが、計画は頓挫、感染症の流行で都市自体も放棄される。7年後、見捨てられた都市で緑地が拡大していることを知った明彷静は、その行く末を見届けるべく、観測員として帰郷を決意する。

審査員評価コメント

人類が去った後の都市と地球の関係が描かれていて、“都市の畳み方”を問う作品でした。使われなくなった建物は廃墟になるという固定観念を覆し、現代の日本で社会課題となっている空き家問題などに対する示唆も読み取れました。文芸作品として見ても完成度が高く、住まいや都市とのコミュニケーション方法としての“音”というインターフェースの選び方が美しいなど、共創プロジェクトでアイデアを深めていく余地に期待して、最優秀賞に選出いたしました。

作品を見る ![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/icon_arrow2.png)

![LIXIL賞](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/award_img2.png)

作品名

海月の降る空、泳ぐ空

ペンネーム

貫ク 藁矢（ツラヌク ワラヤ）

作品概要

ユーザーとその住環境を反映した仮想生命・LI＊IL（リスタイル）を育成可能なオンラインゲーム「＊（プラネット）」。  
筏型の海上都市で暮らす「雲」と、火星から地球へ向かう船に乗る「海月（くらげ）」は、「＊」で互いにすれ違いながらも交流を重ねていく。

審査員評価コメント

 バーチャルな世界とリアルな世界がつながって相互作用が生まれる関係性や、住居が離合集散して街を作っていく発想が魅力的でした。さらに、この街の仕組みがあることで、住宅を起点に家族のあり方も変わっていく可能性を想像させる作品でした。現代、近未来、遠未来の技術が整合性を保ちながら描かれている点も、SF作品として高評価につながりました。

作品を見る ![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/icon_arrow2.png)

![LIXIL賞](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/award_img2.png)

作品名

循環する都市

ペンネーム

神殿 真数（カミドノ マサカズ）

作品概要

植物の特性を帯びた人工素材・樹性高分子（ウッドポリマー）の普及により、自然エネルギーをベースとした循環型の生活が実現した24世紀。  
人々は高さ1.7kmにおよぶ巨大な階層都市に暮らし、資源を共有し、家族ではなく世代を単位とした社会を築いていた。そんな中、新しい世代が生まれる換層期を目前に、シェーナは自分の社会における役割（ロール）を決めかねていた。

審査員評価コメント

 五層のツリーハウスというコアアイデアを突き詰めたことで、強烈なビジュアルを想起させる力がありました。自然が持つ循環のサイクルを住まいや都市に当てはめた時に、社会やコミュニティがどのように変化するのか、誰も見たことがない未来の暮らしが描かれていました。このような技術を生み出してみたいという意欲を掻き立てられた点も評価につながりました。

作品を見る ![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/icon_arrow2.png)

![アノン賞](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/award_img3.png)

作品名

有機住宅は笑わない

ペンネーム

笹田（ササダ） ケンゴ

作品概要

宇宙からやってきた生物・ハウススネイルに共生することが一般的な住まいの在り方となった世界。ハウススネイルのケアを専門とする住医師の水野は、依頼主である小山内のもとを訪れる。ウイルスに侵されたハウススネイルを救うために、高額の治療が必要だと告げられた小山内が下す決断とは。

審査員評価コメント

 住居が生きている設定の作品は多数ありましたが、生きているからこそ、人と住居は対等な関係になることや、一緒に暮らしを楽しみ、時には住居と面倒なコミュニケーションやケアもしながら、ペットのように心理的につながる新しい世界を提示していただきました。家と人との関係性を見つめ直し、住む場所を愛する素晴らしさを実感させてくれた作品でした。

作品を見る ![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/icon_arrow2.png)

![入賞](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/award_img4.png)

作品名

そこにいるとか、いないとか

ペンネーム

草間 小鳥子（クサマ コトリコ）

作品を見る ![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/icon_arrow2.png)

![入賞](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/award_img4.png)

作品名

共に育つ家

ペンネーム

猫田 佐文（ネコタ サモン）

作品を見る ![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/icon_arrow2.png)

![入賞](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/award_img4.png)

作品名

バイオ団地

ペンネーム

駒津（コマツ） ゆはり

作品を見る ![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/icon_arrow2.png)

### ![AWARD WINNERS](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/fin_title2.png)![AWARD WINNERS](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/fin_title2_sp.png) 審査員コメント

羽賀 豊

時間軸などの様々な制約を外して、地球の持続性と住まいのあり方を考えていくために、今回のアワードを実施いたしました。未来の豊かな暮らしへの示唆に富む素晴らしい作品ばかりで、ご応募いただきました全ての皆様に、心よりお礼申し上げます。

浅野 靖司

たくさんの方から着眼点の面白い作品をご応募いただきまして、誠にありがとうございました。地球や自然との向き合い方について、常識や固定概念の枠を取り払って考えていく重要性を感じ、新鮮な刺激をいただきました。

樋口 恭介

文芸的に優秀な作品やテーマに合致した作品など、幅広いアイデアが集まりました。特に、「社会のこういうところが嫌だ」「自分はこうしたい」という感情ドリブンで描いた作品をもっと見てみたいと思いました。SF作品の魅力を再発見した楽しいアワードでした。

大澤 博隆

どの作品にも優れたアイデアが含まれていて、とても面白いアワードだったと思います。単なる技術を用いた社会の描写にとどまらず、登場人物たちの心情や関係性の変化に寄り添ってミクロな視点で描き、人々の想像力を喚起する作品が特徴的でした。

[審査員プロフィール一覧はコチラ ![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/icon_arrow1.png) ](https://landing.lixil.com/futurelifecreativeaward#secJudge)

## ![NOVEL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/sub_title_03.png)![NOVEL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/sub_title_03_sp.png) 2名のSF作家が描いた未来のストーリーを読んで、 イメ―ジを広げよう

### 持続可能の⼟塊（つちくれ）

著者人間 六度（にんげん ろくど）

#### ![STORY](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/sub_title_story.png)

“家が生きている未来”では、温度や湿度を自由に管理し、酸素を生み出すことも可能になった。リフォームすら不要になり、絶えず再生することで新築同然の住まいを手にしたはずだった。そんなある日、土壌省から家とのエンディングを告げに１人の女性がやってくる。32年間の思い出がつまった家は、このままなくなってしまうのだろうか ――――

本編を読む ![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/icon_arrow2.png)

![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/novel_img01.png)

#### ![PROFILE](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/sub_title_profile.png)

27歳。愛知出身。急性リンパ性白血病寛解後、日本大学芸術学部文芸学科に入学。今も在学中。「スター・シェイカー」で第９回ハヤカワSFコンテスト大賞、「きみは雪をみることができない」で第28回電撃小説大賞メディアワークス賞を受賞。インドア人間でモンハンばかりやっています。音楽はsasakureUKとずとまよが好き。４年伸ばしていた髪を切ったらドライヤーの時間が５分の１になって、超SDGsです。

### 我が家の壁内細菌フローラ

著者柞刈 湯葉（いすかり ゆば）

#### ![STORY](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/sub_title_story.png)

遺伝子を設計された微生物群によって、間取りも変えられる家が当たり前になった時代。私は、実家で家事をしながら妹と電話していた。同じ家に住み続け、ライフスタイルの変化に応じて住居をカスタマイズしてきた私と、自由奔放に世界を旅して次々と住む場所を変えても、育った家の環境を再現したがる妹。私たちって、やっぱり姉妹なんだな。

本編を読む ![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/icon_arrow2.png)

![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/novel_img02.png)

#### ![PROFILE](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/sub_title_profile.png)

SF作家。福島県生まれ。分子生物学系の研究職を経て、2016年『横浜駅SF』（カドカワBOOKS）で小説家デビュー。2019年に大学を退職し現在は専業作家。小説に『人間たちの話』（ハヤカワ文庫JA）『まず牛を球とします。』（河出書房新社）他、漫画原作『オートマン』（講談社）、エッセイ『SF作家の地球旅行記』（産業編集センター）など。

## ![APPLICATION GUIDELINE](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/sub_title_04.png)![APPLICATION GUIDELINE](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/sub_title_04_sp.png) 応募概要

[![STEP1](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/step1.png) ](https://landing.lixil.com/futurelifecreativeaward#secVision) [![STEP3](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/step2.png) ](https://landing.lixil.com/futurelifecreativeaward#secNovel) [![STEP3](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/step3.png) ](https://landing.lixil.com/futurelifecreativeaward#secContact)

[![STEP1](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/step1_sp.png) ](https://landing.lixil.com/futurelifecreativeaward#secVision) [![STEP3](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/step2_sp.png) ](https://landing.lixil.com/futurelifecreativeaward#secNovel) [![STEP3](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/step3_sp.png) ](https://landing.lixil.com/futurelifecreativeaward#secContact)

未来の「豊かな暮らし」を探求する  
FUTURE LIFE CREATIVE AWARDを開催します。

最優秀賞に選ばれた方には、  
特典としてLIXILとともに受賞アイデアの世界をさらに探求し、  
具現化するプログラムをご用意しております。

上記にあります3つのSTEPをご確認の上、  
『誰も見たことのない「豊かな暮らし」』をテーマにした  
大胆な発想によるアイデアのご応募をお待ちしております。

名称

FUTURE LIFE CREATIVE AWARD

テーマ

STEP①「未来の暮らし」や、STEP②「小説」を読んで閃いた『誰も見たことのない「豊かな暮らし」』

賞

最優秀賞 1作品/賞金 30万円＋LIXILとの共創プログラム  
LIXIL賞 1作品/賞金 10万円

応募期間

2023年2月15日(水) - 3月14日(火)

参加資格

プロアマ問わず  
※未成年の方は予め保護者の同意を得たうえでご応募ください。

作品形式

小説・絵画・イラスト・漫画・アニメーション・彫刻・インスタレーションなど、アイデアの表現方法やサイズは自由

提出物

Word・JPG・txt・PDF、MP4などの各種データ形式

主催

株式会社LIXIL  
※協力：アノン株式会社

- デジタル化が難しいアナログ作品の場合、原本のご送付は原則不要です。作品を撮影した画像（最低4枚以上）をご応募ください。なお、詳細の審査が必要と判断した場合には、追加資料のご送付をお願いする場合がございます。
- 提出物のデータは、コピーできる状態で、1ファイルにつき100MB以下でご用意ください。
- 既発表作品の応募も可能です。既発表作品の場合、過去にエントリーされた他のアワードやコンテストなどに、応募の制限が無いかご確認のうえご応募ください。

エントリーに関する注意事項はコチラ ![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/icon_arrow1.png)

[スケジュールの詳細はコチラ ![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/icon_arrow1.png) ](https://landing.lixil.com/futurelifecreativeaward#secSchedule)

![最優秀賞 賞金 30万円](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/prize_img01.png) ![LIXIL賞 賞金 10万円](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/prize_img02-1.png)

![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/icon_prize.png)最優秀賞特典

最優秀賞受賞者は、特典としてアワード後にLIXILとの共創プログラムにご参加いただきます。プログラムでは、LIXIL社員と複数回のディスカッションを行いながら模型（予定）を制作し、作品世界の具現化を目指します。

※ 最優秀賞にはディスカッション参加が必須となります。

## ![SCHEDULE](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/sub_title_05.png)![SCHEDULE](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/sub_title_05_sp.png) スケジュール

![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/schedule_img.png)![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/schedule_img_sp.png)

※予定が変更になる可能性がございます。

## ![JUDGE](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/sub_title_06.png)![JUDGE](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/sub_title_06_sp.png) 審査員

- ![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/judge_img01.png)
  
  羽賀 豊
  
  LIXIL Housing Technology  
  ビジネスインキュベーションセンター  
  センター長
  
  2014年、株式会社LIXIL入社。ハウジングテクノロジー事業のプロダクトデザインやUIデザインを担うデザイン部門責任者として活動しながら、2019年にビジネスインキュベーションセンターの企画と設立を行い、新規事業立上げを推進中。21年4月よりハイエンドブランド『NODEA』を発足し、事業責任者として運営にも携わる。
- ![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/judge_img02-1.png)
  
  浅野 靖司
  
  LIXIL Water Technology Japan  
  事業企画部 部長
  
  1990年、株式会社INAXに入社。2008年にトイレ事業部商品部長、2015年に水栓事業部 事業部長を経て、2017年LWT Japan新規事業推進部を創部。クラウドファンディングや異業種との協業、新業界への展開など、新たな取り組みにより、『オンデマンドエコカラット』や泡シャワー『KINUAMI U』などの新規事業を複数立上げ。エンドユーザーへのスピーディな価値提供の実現に取り組んでいる。
- ![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/judge_img03-1.png)
  
  樋口 恭介
  
  SF作家  
  anon.inc CSFO  
  (Chief Science Fiction Officer)
  
  『構造素子』で第5回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞。『未来は予測するものではなく創造するものである』で第4回八重洲本大賞を受賞。編著『異常論文』が『SFが読みたい！2022年版』の国内SFランキング第1位。その他の著書に『すべて名もなき未来』『眼を開けたまま夢を見る』『生活の印象』。
- ![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/judge_img04-1.png)
  
  大澤 博隆
  
  慶應義塾大学理工学部  
  管理工学科准教授
  
  慶應義塾大学理工学部准教授および筑波大学システム情報系客員准教授、HAI研主宰者。ヒューマンエージェントインタラクション、人工知能の研究に幅広く従事。共著として「SFプロトタイピング: SFからイノベーションを生み出す新戦略」など。監修として「SF思考 ビジネスと自分の未来を考えるスキル」など。人工知能学会、情報処理学会、日本認知科学会、ACM等会員、日本SF作家クラブ第21代会長。博士(工学)。

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今からは想像できないほどテクノロジーが進んだ未来では、自然と共生しながら循環社会が成立している世界になっていると本プロジェクトでは考えています。住宅においても利便性が高まり、「豊かな暮らし」の定義や概念も変わっているでしょう。人が豊かになることはもちろん、社会全体や環境までも豊かになる未来では、どのようなビジネスが求められるのか、ぜひみなさまの驚くアイデアを楽しみにしております。

## ![FAQ](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/sub_title_07.png)![FAQ](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/sub_title_07_sp.png) よくある質問

エントリー費を教えてください。

無料です。

個人名を出したくないのですが、公表されますか？

手続き上、本名をお伺いしますが、「ペンネーム欄」にご記入いただければ個人名を対外的に公表することはありません。

作品のボリュームに制限はありますか？

制限はありませんが、小説なら6000字程度、漫画ならA4で30ページ程度、アニメーションなら5分程度に収まるボリュームになるようご調整いただけますと幸いです。

複数の作品を応募できますか？

応募は一人一作品までと致します。

グループで応募する場合、全員登録する必要がありますか？

代表者の方だけで構いません。応募フォームの「プロフィール欄」にグループのメンバーの方のお名前を入力してください。

作品のデータが100MB以上になりますが、どうすればよいですか？

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審査結果は、どのように発表されますか？

受賞者には個別にご連絡させていただき、当サイトで発表いたします。受賞可否や受賞結果等に関するお問い合わせについては、個別でのご対応は致しかねますのでご了承ください。

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作品応募は2023年3月14日をもって  
終了させて頂きました。  
たくさんのご応募ありがとうございました。

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## ![THINK ABOUT FUTURE LIFE](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/modal_title_01.png)![THINK ABOUT FUTURE LIFE](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/modal_title_01_sp.png) 未来の暮らしを考える

「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」 それはLIXILの目指すものであり、きっとみんなが求めるものでもある。でもちょっと待ってほしい。何が本当に「豊か」なのか、一体どうやって決めればいいんだろうか？　21世紀の豊かさは、30世紀では貧しさかもしれない。人間にとっての貧しさは、ミツバチにとっての豊かさかもしれない。未来へ向けて、人間以外へ向けて「豊かさ」の質を描き直してみたら、そこにはどんな世界が開けてゆくんだろうか？

人間はこれまで、ままならない世界をなんとか乗りこなしてきた。そんな人類の智恵を「暮らし」と呼ぶのなら、もはやわたしたちは自然からも、社会からも振り落とされかけているのかもしれない。世界各地で未曾有のハリケーンが暴れ回り、あとには傷ひとつない高層ビルと泥水に沈んだスラムが残される。環境の変化も資本主義による格差も、もうついていけないほどに加速してしまった。そんな世界でわたしたちは祈るように、口々にあるワードを叫んでいる——持続可能性と。しかし一体、何を持続させようというんだろう？　わたしたちはまず、持続させるに足る未来を描くところからはじめなければならない。環境を破壊して成長を続けるか、成長を諦めて後戻りするか。そんな2択で迷ってる時点で、とっくに未来は失われている。わたしたちが本当に悩むべき問いは、こうじゃないだろうか——人の豊かさの追求と環境の豊かさの追求を共存させるにはどうすればよいのか？

そんな問いの先で、本プロジェクトが模索する未来の暮らし——それは、テクノロジーを介して自然物と人工物が溶け合った世界だ。そこでは、生物をベースにしたプロダクトが暮らしに溶け込み、自然物と見分けがつかないほどに混ざり合っている。例えば、遺伝子改変されたミミズが土壌を耕しながら宅地造成をしてくれるかもしれない。例えば、家は光合成によってエネルギーをまかなう植物の一種になっているかもしれない。例えば、庭の植生が生活排水を濾過し、排泄物は分解されながら家族の健康状態を教えてくれるかもしれない。自然のサイクルと人工物のサイクルが合流し、本当の意味での循環社会がそこに立ち現れる。その時、わたしたちはもはや「家に暮らす」とは言わないだろう。なぜなら、家とは「一緒に暮らす」パートナーのひとりに他ならないのだから。日差しと雨がゆっくりと家を育み、やがてその中で赤ん坊が産声をあげる。光合成によって家が生み出した空気を胸いっぱいに吸い込んで、その人生をはじめる。そうした子どもたちが家とコミュニケーションを交わしながら、さらなる未来へ向けて、よりよい暮らしを創り出してゆく。

もしそんな未来が実現したら、暮らしを支えるビジネスも大きく変わるはずだ。バイオプロダクトを開発するためには、遺伝子工学の知識が必要になるかもしれない。健康な家を育てるためには、土壌管理の知見が必要になるかもしれない。多様な生物とともに暮らすためには、全く新しいガバナンスシステムが必要かもしれない。もちろん、社会のかたちや人々の感覚、思想も変わっていくだろう。

暮らしという不定形なものの未来を描くことは、人間がこの地球にどのように関わるかを問い続けることに他ならない。そんな中で近代社会が築いてきた豊かさとは、人間中心主義的な「閉じた豊かさ」だったのかもしれない。そこから無数の生物・無生物たちと対等にふれあい、リソースを交換しあう「開かれた豊かさ」へ向かうには、どうしたらいいのだろう？　さあ、一緒に暮らしの未来を想像／創造してゆこう。

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## ![NOVEL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/modal_title_02.png)![NOVEL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/modal_title_02_sp.png) 持続可能の⼟塊（つちくれ） 著者人間 六度（にんげん ろくど）

「どうも。土壌省土壌局、住宅枯死観察官の神尾うるしと申します」  
　スーツ姿の若い女性がうやうやしく腰を折り、桃色のフレームのスマートメガネを操作して電子名刺を送ってきた。  
　手元のフォンでそれを拡大し、目の前の女性――神尾うるしと見比べる。スーツの胸元で輝く白銀のスエヒロダケのバッジを睨み、おれはつぶやいた。  
「土壌省がいったい何しに」  
　そこへ足音があった。妻の詩音がキッチン仕事を済ませて、こちらにやってきた。  
　おれは雪駄を履いて隣に並び立った詩音に視線を下ろす。  
　詩音は驚くふうもない。それどころか、待ち構えていたような表情をする。  
「君が呼んだのか」  
　詩音が顔を上げる。  
「だって。もう２階のあれ、放ってはおけないでしょ」  
　おれはうるしを一瞥すると、そのまま何も言わずに家の中へと引っ込んだ。  
　ちょっとでも外の空気を吸うと、ハーブの香りが途端に意識に上ってくる。芳香剤の仕業ではない。それは家そのものの放つ香りだ。  
　家は、立ち入るものとそうでないものとを隔てている。  
　虫は残念ながらおれには愛されても、詩音には愛されなかった。だから外気と接する部分からシトラールやリナロールを放出し、立ち入りを拒んでいる。  
　おれは少し肌寒いリビングから扉をそっと開け、２人の様子を覗いていた。ストッキングに覆われたうるしの足が床を踏んだ途端、天井からギィ、ギィと家鳴りが起こった。  
「すみません。過剰反応で」  
　詩音が謝った。  
　家族以外の誰かが足を踏み入れると、この家は決まって家鳴りを起こす。  
　うるしは笑顔を崩さず、壁に手を添えて囁いた。  
「ごめんなさい、私は違います（、、、、）」  
　まるでその声に言霊が込められてでもいるかのように、家鳴りが止まる。  
　おれはソファにどっかりと腰を沈めた。２人がリビングに来ることはわかっていたが、土壌省のためにわざわざ退くというのも、何か違うと思ったのだ。  
　詩音はうるしを座らせるとキッチンへと向い、人の頭ほどの大きさの発熱ポットに栄養プラグを差し込んでスイッチを押した。ポットはプラグから送られる栄養液を喰らい、その代謝熱で湯を熱しはじめる。  
「なあ詩音」  
　おれはたまらず声を飛ばした。  
「どうしたの」  
「そのポット、買い替えた方がいい」  
　家を購入した当時。全てのことは２人で決めていた。  
　間取り、家事の分担、色素帆（しきそはん）から還元されるグルコースの分配――いつからだろうか。キッチンは詩音の場所になった。詩音が食器の配置を決め、詩音が冷蔵庫に詰め込む冷凍食品のブランドを決めるようになり、そしておれがキッチンに入ると家は悶えるように家鳴りを起こすようになった。  
「でもまだ使えるわ」  
　詩音が、グツグツと言い始めたポットに視線を落とす。  
「３２年前に買ったもんだぞ。そんなもので人をもてなそうとするなよ」  
　詩音が何を酷いことを言うのかという具合に、ポットを庇うような仕草をする。  
「ビオファクチャー（、、、、、、、、）は絶えず再生を繰り返します。遺伝破損と物理破損以外で、製品が劣化することはありませんよ」  
　頼んでもいないのに神尾うるしが、わけ知り顔で詩音にフォローを入れる。  
　おれは爪弾きにされた気になって、壁の１面に埋め込まれたテレビへと視線を逃した。  
　画面の一部に縫合跡のような亀裂の入った、もう使われていない壁面一体型のテレビ。しかしそいつは今もリビングの１番大きな壁の真ん中に陣取り、うつろな黒い画面でおれの顔を写している。  
　詩音が棚からマグカップを取り出した。トーテムポールのイラストの入った奇怪なマグは家族旅行のときに買ったもので、お揃いのものが３つあった。  
　３つ。  
　その１つに湯を注ぎ、詩音は招かれざる来客に茶を出した。  
「あっ。美味しい」  
　微笑む神尾うるし。この女は、いつまで居座るつもりなのだろう。  
　うるしはやがて、カバンから書類を取り出した。土壌省の提案する『住宅計画枯死』の説明書きだった。  
「住宅枯死観察官の目的は、居住者さんと、家との、円満のエンディングです」  
　住宅枯死観察官。  
　家を殺す者。  
　詩音は熱心に資料に目を通しているようだったが、彼女だってこれから何が起こるのか頭ではわかっている。  
「ご存じのとおり、家は生きています。家だけではなく、今やほとんどの家電も、この都市さえ」  
　うるしが静かに告げる。  
　それは２０４４年に開発された土壌コンピューターと、それに伴う土壌省の発足に端を発する。  
　子実体を持つ菌類の菌糸ネットワークに高度な情報処理能力が秘められているということは、２０年代には明らかだった。その仕組みをコンピューターとして利用できるようになるまでに１０年、実際に関東一部の土壌に敷設するのに１０年を要した。  
　今や都心の大地は巨大な計算機であり、その計算機を過不足なく運用するために、今度は栄養の輸送網が設置された。  
　それが――栄養社会の萌芽。  
　栄養の輸送には、初めは水道のように無機物的な道管が用いられていたが、内部にバクテリアが増殖してしばしば断裂の原因となった。そこで土壌省は、免疫構造を持ち、自己再生能を持った道管の開発を迫られた。  
　製品ではなく、生命へ。  
　加工ではなく、育成へ。  
　土壌コンピューターの常時稼働によって土地は賢者となり、その計算能のほとんどは遺伝子編集の技術発展に用いられた。そうして、無から生命をデザインする『遺伝子建築』が生み出された。  
「記録によりますと、この家を購入したのは３２年前になりますね」  
　うるしが部屋を見渡す。  
　壁に穿たれた凹みや天井にある亀裂は、傷というより家そのものが持つ特徴と言うべきだった。おそらく購入した当初からそうだった。そして家の姿は３２年前とほぼ変わることのないまま、新築同然であり続けている。  
　定期的なリフォームを行なっているわけではない。植物細胞によって形作られる家自身が、絶えず再生しているのだ。  
「結婚して２年の頃です。夫と一緒に決めました」  
「思い入れがあるんですね」  
「ええ。そうよ。一緒に生きてきたんです。一緒に歳をとってきたの」  
　詩音が感傷的になってそう言う。間違ってはいない。実際に登記のない家の壁面をスライスすることで年輪の数を確かめ、築年数を割り出すことができる。  
　しかし中身を抉り出しでもしない限り家はあくまで旧来的な――無機物だった頃の家と変わりはない。ブラウン調の壁紙然とした樹皮に包まれた、ものいわぬ箱だ。  
「息子が、夏生が生まれたのはこの部屋です」  
　詩音の視線が立て入りの家族写真に向いた。夏生と詩音、そしておれの３人で鮎の塩焼きを頬張っている。１０年ぐらい前、栃木の観光鮎やなを訪れたときに撮った１枚だ。  
「夏生が初めて吸った空気は、この家が生み出した空気です。そして夏生が初めて踏んだのは、この部屋の床なんです」  
　詩音が続ける。おれは再び、壁にはまったテレビに目をやった。  
　今でもはっきりと覚えている。おれは仕事終わりにいつものように私設放送のゲーム実況番組を見ていて、夏生はおれたちに東京に行きたいと打ち明けた。おれは家の恒常性紋（ホメオステータス）を核家族モデルにしていて、その人数をもとに二酸化炭素濃度や湿度を調節しているからむやみに家を出ることは許さないと言った。  
　おれには恒常性紋をいいわけに使っている自覚があった。  
　だが上京しさえすれば何かが変わると思っている夏生の態度が気に入らなかった。  
　口論になり、夏生の投げたリモコンがテレビのモニターに当たった。  
　テレビは反射小板を持つ虹色素胞によって構成される。モニターが当たった衝撃で１番外の皮膜が引き裂かれ、内部の色素細胞が斉一性を失って画面が一瞬にして鮮烈な虹色に染まったことを覚えている。それまで怒鳴り声を上げたことすらなかった夏生が、初めて見せた反抗に、今思えばおれは、ただ怖くなったのだ。  
　現代の製品は、栄養プラグさえ繋いでおけば壊れても勝手に治る。メーカーの設定する遺伝破損耐久年数を超えても、製品を動かす神経基盤が癌化するまでは使用に耐え続ける。テレビのモニターの外皮は裂け、４時間も経たずに治った。だから今でも映像を見ることができる。捨て台詞を吐く夏生の表情に似た、どこか歪みのある映像を。  
「もっと家を見させていただいても？」  
　詩音が快く頷き、ガラス質の戸を開けてうるしを庭に出そうとしたので、おれは２人の間に割り込んだ。  
「そこはおれの場所なもんで。案内ならおれがする」  
　おれは巨大なウッドデッキのような庭へと足を踏み出す。  
　昨日は雨だったが、自浄作用のあるデッキは、素足で触れることのできる清潔感を保っている。デッキの上には、デッキと同じ素材でできたテーブルが置かれている。――いや、置かれているのではなく、それらは通じていた。デッキとテーブルと椅子は、全てひとつながりの構造物で、家の『体』の一部だった。  
　天井となる部分には、巨大な青々とした放射状の色素帆がいく枚にも重なっていて、今もなお太陽を追って面の角度を少しずつずらしている。  
　穏やかだった。  
　ここには自然があって、そして、暮らしがある。それらが不可分に共存している。  
　おれは横隔膜を震わせ、家が排出した新鮮な酸素で肺を満たした。  
――『遺伝子建築』は、『建築』のための技術ではない。遺伝子編集（、、、、、）が既存の遺伝配列を入れ替えることにとどまっていたのに対し、遺伝子建築は生命の図面を描き、全く新しい生命を製造する技術だ。そして人類の生活にとって必要な『機能』のほとんどは自然界に、すでに在った。  
　たとえば代謝熱は暖熱器具に応用できるし、蛍の冷光はLED電球をはるかに凌ぐエネルギー変換効率を持つ。biofacture（ビオファクチャー）と呼ばれるそれらの製品には当初、いくつかの問題があった。主たるものとして、生殖能が残っており、他社製品とホルモンによる悪質な相互干渉を起こす恐れがあった。  
　それは生物としては正しいことだったが、製品としては欠陥だった。そこで今から３０年前に生殖能の完全撤廃が義務化され、それ以来、biofactureは循環型社会の要求を満たし続けてきた。  
　栄養網を通して供給される液体肥料と雨水と二酸化炭素を消費してゆっくりと呼吸し、余剰スペースに人間を住まわせることを目的として生み出された巨大な植物――biofactureとしての家には、他の製品とは一線を画す特徴があった。  
　それは恒常性だ。  
　すなわち外の環境に限らず中の環境を一定に保つこと。  
　細胞膜が細胞内の塩分濃度を一定に保つように、恒温動物の体毛と汗腺が体温を一定に保つように、家はおのずからその調整を行う。雨が降る日には室内の湿度を下げ、底冷えする日には壁や床から熱を発する。この恒常性をより適した形に作用するために、立地と個人の志向によって固有化された恒常性紋というものが、家のそれぞれの遺伝情報には設定されている。  
　庭から戻ると、うるしが２階への階段を見据えて言った。  
「そろそろ、問題の部屋に案内してもらいましょうか」  
「待ってくれ」  
　おれはカバンを下ろし、中から防護マスクを取り出そうとしている彼女の前に立ち塞がる。  
「あんたが踏み入ろうとしているのは、夏生の部屋だ」  
　うるしがかすかに眉根を寄せる。  
　うるしには、おれたちの家族構成だけがわかっている状態だった。  
　詩音が言った。  
「息子です。彼とは、その、１０年前から音信不通になっていて」  
　おれは床とひとつながりになった壁に手を添えた。そこにもまた、つぎはぎのような傷があった。おれたちが最後に夏生を見た日。飛び出していく寸前の彼が穿った穴が、塞がってできた傷跡だった。  
　夏生はついにおれたちを殴らなかった。  
　けれど家は、おれたちではどうすることもできなかった彼の怒りを、今もその体で覚えている。  
「他人（ひと）がこの家に足を踏み入れるたび、家鳴りがするんだ」  
　家は、己の恒常性を最適化するために、住人の人数を細かく規定している。まるで住人を自らの器官の一部とでも捉えているかのように。  
　この家は元々、３人暮らしを想定していた。  
　３人分の代謝熱を差し引いた温度設定。だからいつも、少しだけ肌寒い気がするのだ。  
　おれは言った。  
「わかってる。その反応が家の、恒常性によるものだってことは。でもそれがどこか、家が住むべき人間を探しているように思えてならないんだ。夏生を、ずっと待っているように思えてならないんだ」  
　だからあんたに来てほしくはなかった、とおれは小さく付け加える。  
　うるしの瞳がおれを捉える。  
「旦那様。私は御子息の、居場所を奪うために来たのではありません。少なくともそうはならないように、手を尽くすために来たんです」  
　詩音がそっとおれの手を握る。  
　おれは握り込んだ拳を額に押し当て、黙って道を開けた。  
　うるしがマスクをつけ、スエヒロダケのバッジを押し込んでスーツの防護膜を展開する。袖から先が透明の皮膜で覆われ、指先にピタリとフィットする。おれたちも箪笥から簡易的な防護服を取り、２階へと上がった。  
　トイレの隣に当たる部屋には、瘴気耐性のある脂肪質の防護膜が貼られていて、おれはそれを力任せに引き剥がした。  
　うるしが戸を開ける。  
　照明がつけっぱなしだった。熱をほとんど放たない蛍電球の青白い光が、こぢんまりとした部屋に降りている。目にできるものは漫画の単行本が無数に収められた本棚と、モニターの一体化した勉強机と、開けっぱなしになったクローゼット。それだけではない。  
　冷光を受けぎらりと輝く、立派な一本竿のきのこのようなものが、床の凹凸からニョキリと生えていた。  
　うるしは目を細め、懐から検知器を取り出す。  
　犬の嗅覚細胞を模倣した検知器が、その琥珀色のキノコの正体を早々と特定した。  
「オメガしめじですね」  
「そうですか。やっぱり」  
　詩音がうなずいた。  
「でも、一体どういう経路で？　インストールした免疫が古かったのでしょうか」  
「それは、私たちにもわかりかねます。オメガしめじは神出鬼没です。今は政府も対応に追われている最中です」  
　おれはこの数ヶ月何度も目にし、その度に大きさを増してきたその邪悪なキノコを睨みつける。  
　放っておけば錆び朽ちてしまう機械と違って、ビオファクチャーは栄養供給と引き換えに新品であり続ける。人類が獲得したのは、１０００年経っても維持される街並み。しかし問題もあった。  
　生物攻撃（バイオアタック）である。  
　このオメガしめじは何らかの悪意ある人間の手によって作られ、街中にばら撒かれた。目的は、国の資産である土壌の計算能力の乗っ取りだ。  
　そもそも植物は、動物のような獲得免疫を持たない代わりに、細胞の受容体が微生物の侵入を選択する植物免疫という防衛応答を備えている。しかし病原菌は、エフェクターと総称される分子を獲得することで、植物の防御を掻い潜ってきた。  
　このオメガしめじもまた、エフェクターを用いることで家の防御反応を回避し、寄生。そののち、壁や床の内部を這い進みやがて土壌にまで菌糸を伸ばす。土に出れば、そこに境界はない。放っておけば土の中を広がり続け、その計算能力をも増大させ、都市インフラの機能さえ奪いかねない。  
　くいとめる方法はただ１つ。  
　計画枯死だ。  
　土壌省の管理下にあるバクテリアを放ち、家を自壊させ資源を土壌へと変換する。その過程で、バクテリアの出す酵素によってオメガしめじも死滅させることができる。  
「住宅枯死観察官の目的は、居住者さんと、家との、円満のエンディングです」  
　うるしはコンコンと２度、白い皮の張った壁を叩いた。すると示し合わせたように家鳴りが起こる。死期を悟った家の、最後の挨拶みたいだった。  
　うるしが見つめているのが、顔を伏せていてもわかった。  
「居住者さんの意思決定なしに、枯死を推し進めたくはありません」  
　土壌コンピューターは災害予測や政治的判断への助言にも行使される。計算能力の喪失は、国防にさえ関わりかねない。  
　だから土壌省が来た。  
　家を、汚染ごと焼くために。  
「ここにあいつはいたんだ。この家が消えたら、あいつはどこに戻って来ればいい？」  
「はい」  
　うるしの柔らかな声と、詩音の諭すような視線。  
　そのはざまでおれは、言葉を続けた。  
「あいつが戻ってきた時におれたちは、どんな顔をしていればいい？」  
　おれだって、これから何が起こるのか頭ではわかっている。  
　わかっていて、ただ駄々をこねているだけだった。  
　家は、おれたちより、おれたちのことを知っている。  
「この家は、おれたちのことを最初から見てきたんだ」  
　そしておれたちはずっと、その大きく暖かな意志の中に抱かれてる心地よさを、夏生がいなくなるまで気づけなかった。  
「だって、もう３２年だ」  
　３２年。  
　口の中でそう数字を唱えたうるしは、ひらめきに打たれたように笑顔を作る。  
「旦那様。３２年……３２年前ですよ！」  
　首を傾げる詩音と訝しむおれを交互に見ると、うるしは言った。  
「それなら大丈夫（、、、）かもしれません」

＊

　７ヶ月後。  
　国営の仮住まいから遠出して、おれと詩音は久々に家へと戻ってきた。  
　計画枯死が完了したのである。  
　そこはすでに腐葉土のような、栄養に満ちた土の積載した空き地であり、オメガしめじの脅威ごと、おれたちの生活の風景は跡形もなく消え去っていた。  
　そんな黒く湿った土を踏み鳴らし、ヒールの女性がこちらに歩いてくる。  
　胸に、白銀のスエヒロダケのバッジをつけた、若い住宅枯死観察官。  
　神尾うるしは、土塊のようなものを両手に包み込んでいる。  
「見つけましたよ〜！」  
　黒い土の中で、親指ほどの橙色の玉がきらりと輝く。  
　首を傾げる詩音に、うるしは言った。  
「種です」  
「種……」  
「生殖モデル（、、、、、）だったんですよ。この家」  
　呆気にとられるおれの隣で、詩音がその玉をじっと見つめる。少し皺の寄った光沢のある皮をした、どんぐりのようないびつな形をした橙色の玉。  
　おれたちが息子の帰りを待つあのリビングも、大きな穏やかな意志に包まれるデッキも、そして彼の部屋も。  
　消えなかった。  
「認可が降りてる場所に植えてくださいね！」  
　うるしが微笑み、種を差し出す。  
　おれは水をすくうときのように、合わせた両手を送る。  
　掌に受けた土塊は、ほのかに温かかった。

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## ![NOVEL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/modal_title_02.png)![NOVEL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/modal_title_02_sp.png) 我が家の壁内細菌フローラ 著者柞刈 湯葉（いすかり ゆば）

「お母（かあ）の作ってたヨーグルトあるでしょ。あれ食べたい」  
　イヤホンから流れ出る妹の声は腹を空かせた猫のようだった。月に3度は電話をかけてくるので、2年以上会っていないのに、うっかりすると家のどこかにいるような気がしてくる。  
「今度帰ってきた時？」  
　姉がそう答えて、しばらくの沈黙。手にしたモップを上下に振って、壁のガラスについた土汚れを落としていく。  
「もう1年くらい帰れないから、種菌だけ送ってよ。こっちで増やすから」  
　ヨーグルトの種菌なんてどれも一緒じゃないの？ と姉は思ったが口には出さない。妹が小学生の頃に母が買って、それからずっと継ぎ足ししてきた種菌だ。目に見えない微生物とはいえ、家族とともに育ってきたペットのようなものである。これからも継承していきたい、という思いが彼女にはあるのだろう。  
「そう。1年後だとまたうちの形も変わってるだろうから、びっくりしないようにね」  
　と返して、またしばらく沈黙。  
　通信遅延が大きいので、ひとこと言うたびに数秒の空白が挟まる。といってもお互い切羽詰まった話題はなく、家事のBGMにはちょうどいい話し相手、といった扱いだ。姉はぼんやりと壁掃除を続けた。  
　家のほぼ全面が深緑色の壁材で覆われている。表面は薄いガラス層でうっすらと光沢がある。一昔前の人が見れば美術館か何かだと思うかもしれないが、今ではごく平凡な家屋建築だ。多孔質の珪藻土の中に、遺伝子を設計された微生物群による生態系が構築されている。  
　外側に面した藻類が太陽光を吸収し、炭酸ガスから有機物を光合成する。夏の間に溜め込んだ有機物は冬になるとゆっくり分解され、その熱で家の内部をほんのりと温める仕組みになっている。湿度についても同様の調節機能があり、室内はほぼ年中快適な環境が維持されている。  
　太陽電池パネルと違って重金属類をほとんど使わないので、低い環境負荷で長期的なエネルギーの備蓄が可能だ。  
　ただ問題は掃除の手間だった。壁の表面は珪藻が分泌したガラスで覆われているが、これが汚れると太陽光を吸収できなくなり、壁の機能は急減する。日本全体の降雨量がこのところ急速に増えていたので、掃除の手間は相当なものになった。  
　業者に頼むこともあるが、姉はなるべく暇を作って自分で拭いていた。生まれてからずっと暮らしてきた家だけに、できる限りの管理は自分でしたい、という思いがあった。集合住宅が主流な中で両親がこうした一軒家を選んだのも、同じような思いがあったに違いない。  
　集合住宅は建物全体にひとつの生態系が行き渡るので、管理会社によって住民の最小公倍数的な生態系が構築されることになる。これに対して一軒家における壁の生態系管理は家主ごとの個性が出るため、外見や機能をそれぞれの趣味で発揮させるミクロガーデニングが広く親しまれていた。盆栽のように育てた壁を見せ合う会が、リアルでもオンラインでも開催されていた。  
　ただ姉の家で行われていたのは、そうした趣味性の少ない、実際的な面からの壁づくりだった。  
　地元の大学を出て地元で就職し、妹が進学して家を出て、結婚して夫が住み、続いて息子が産まれ、と家族の構成員が変化していく中で、壁の中の微生物群も少しずつ変化させることになった。  
　小さい頃の息子はひどいアトピー体質で、いつも顔を赤く腫らせていた。どうも家ダニが原因らしいとわかると、医療機関に依頼して、壁内の生態系に新しい細菌群を仕込んで、抗ダニ性の成分を分泌するようにしてもらった。しばらくすると息子の皮膚はみるみる綺麗になっていった。  
　そんな息子が中学生になると「個室がほしい」と言い出したので、リビングに壁をひとつ増やして部屋を作った。最初の数か月は耐震用の補強器具が必要だったが、しばらくすると珪藻が展開して天井と床に接着され、最初からそういう間取りだったかのようになった。それを見て姉はなんとなく懐かしい気分になった。そこはかつて妹の個室があった場所だからだ。  
　息子に手がかからなくなるのと入れ替わるように、今度は父が要介護になった。足腰を悪くすると同時に認知症も進んで、夜中に自分でトイレに行くのが難しくなってしまった。深夜に何度も起こされた挙句、結局部屋の隅にカーテンで仕切っただけのトイレを新たに設置することにした。  
　改修費用を抑えるために、水道管の接続されないおまるのようなトイレにした。当初は臭いが心配だったが、トイレ専用に遺伝子設計された細菌群たちによってアンモニアはすぐに固定され、溜まった袋をゴミに出すだけでよかった。定期的にそれを医療機関に送ることで、父の健康状態をモニタリングしてくれた。  
　姉がそのようにして実家をカスタマイズしながら、半径数キロで完結した人生を送っているのとは対照的に、妹の方は誰に似たのか、自由奔放にあちこちを飛び回り、数年ごとにしか帰らなかった。  
　とはいえ妹も、実家を愛していないわけでもないらしい。  
　その証拠に、卒業してノルウェーに移住する際、使い慣れた枕と、実家の壁を一枚だけ持っていったのだ。  
　基盤となる珪藻土は世界中どこも同じ規格なので、ソフトウェアをコピーする要領で、持っていった壁の微生物群を家全体にインストールすることができる。そのせいで極寒のノルウェーでも「うちの中の空気が実家みたい、安心する」と言っていた。  
　北極圏にあるノルウェーの町は、夏場は一年中陽が沈まない。太陽が地平線沿いを這うようにしてぐるぐる回っている。その光を四方の壁面藻類がたっぷりと吸い込んで、ずっと夜の続く冬をやり過ごしているのだ。  
　もともとはこういう機能性微生物群を使って、大気中のCO₂のほとんどを炭酸塩として固定して、海に沈めてしまう計画だったらしい。とはいえ海全体に人工的な生態系をばら撒いてしまうのは「予測不能のリスクがある」として実用化されず、現在では住宅の壁などの閉鎖された環境での使用に限定されている。  
　そのため前世紀に放出されたCO₂はそのまま大気中に放置され、少しずつ地球の気候を変えていた。  
　妹がノルウェーに行ったのは、確かそういう理由だった。しばらくは海外の有名なネットメディアに消えゆく氷河の写真が載り、妹の名前がクレジットされていた。それを見ていると姉ながらずいぶん誇らしい気持ちになったものだった。  
　ところが数年すると、妹は氷河を撮るのをやめてしまった。  
やっぱり氷河を見ても、自分達のことだって実感が湧かないし、見た人が地球全体のことを考えたくなるような写真が撮りたいんだよね」  
　とかそんなことを言っていた気がする。どこにでも行くけれど、そこで見る出来事を「自分ごと」にしたい、というこだわりが妹にはあって、使い慣れた枕と壁内細菌フローラを持ち歩いていくのだ。  
　そういうわけで、いま妹は月面にいて、地球の写真を撮っている。  
　月面基地のメンバーは研究者ばかりで話題が偏屈すぎるらしく、「おねえと喋りたい、そろそろ日本語忘れそう」と頻繁に電話をかけてくる。電波が往復するだけでも3秒かかるので会話はしづらいけれど、家事のついでの話し相手にはちょうどいい。  
　壁材の微生物群は月面でもきちんと機能している。強烈な宇宙線を浴びる月面では組み込む藻類もずいぶん改変を強いられたらしいけれど、激しすぎる昼夜の寒暖差を緩和させるのにずいぶん役に立っている。  
　とはいえ、さすがに実家の壁を月面基地に使うのは断られたらしい。大気のない宇宙で壁一枚貼り替えるコストを考えれば当然のことだった。  
「だから、せめてヨーグルトの種菌くらい持ち込ませて欲しいんだよ」  
「別にいいけど、牛乳はそっちで買えるの？」  
　と言って数秒の沈黙。モップを物置に戻して、綺麗になった深緑の壁に目をやる。この中に仕込まれた物言わぬ微生物たちが、これからも自分達の生活を見守ってくれるのだろう。  
「あ、牛乳っていっても牛じゃなくて、酵母菌で作ってるやつだけどね。味そんなに違わないよ」  
　という妹の声。それを許容できるのになんで種菌にはこだわるんだ、と姉は思ったが言わない。妹も彼女なりに、自分の育った家を愛しているのだ。

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- 最優秀賞受賞者は、特典としてアワード後に当社との共創プログラムにご参加いただきます。プログラムでは、当社従業員等と複数回のディスカッションを行いながら模型（予定）を制作し、作品世界の具現化を目指します。
- 未成年の方は、予め保護者の同意を得たうえでご応募ください。作品をご応募いただいた時点で、保護者の方の同意があったものとみなします。保護者の方の同意が得られていないことが発覚した場合、主催者にて応募を取り消す場合があります。
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## ![NOVEL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/modal_title_02.png)![NOVEL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/modal_title_02_sp.png) ヴィタ・アルモニカ 著者伊島 糸雨（イトウ シウ）

　目を覚ます。寝台を這い、コーヒーを淹れ、隅の鉢植えに水をやる。十年前の流行のまま時を止めた機能的なデザインの一室で、棚に並ぶ書籍と標本の連なりを見る。薄く差し込む朝日はよそよそしく透明に澄み、緩慢にブラインドを開けた先には瑞々しい緑が広がっている。  
　律を刻む時計は今でも正常に動き続け、私は十二へ至る長針を眺めている。七時になった時、荒涼とした灰色を背に、緑化の終点で輝く新芽が琴を爪弾く。金の刺繍をあしらった白地の衣、その裾を揺らしながら、ひとりの少女が歩くのを私は見る。手にした錫杖の先には弓形の小さな弦が張られ、地面を叩く音律に合わせて小刻みに震えている。透明な歌声が響き渡り、私は湯気の立つマグに口をつける。  
　一〇〇〇日目。  
〈律鳴〉は今日も麗しく、都市は今も、生命の調和を阻んでいる。

　ここに来る前、私にはたくさんの肩書きがあった。生命工学部教授、都市環境デザイナー、未来都市構想計画補助責任者、エトセトラ、エトセトラ。複数の役割があり、仕事があったが、それらは実のところさして心躍るものではあり得なかった。すでにやり終えたことの退屈な清算。他に表現のしようもない。  
　都市基幹システムにまつわる幾つかの特許が私を金銭のための労働から解放して以降──あるいは、長年研究を続けていた理想都市構想が無に帰したその時からというもの、私は夏の夜の公園に見る蝉の抜け殻のようなものだった。用済みで、退屈。生の指標を失ったと思い、再生産するほどの気力も湧きはせず、虚無と表する他にない生活のルーティン、肩書きに沿った機能を発揮するだけの日々を酒で誤魔化すことだけがうまくなった。  
　都市は人間を呑み込む世界の穴だ。人を愚者の単位につくりかえる。しかしだからこそ、理想を委ねる価値があった。生活と時間の渦の中で、人がいつしか〝生きた都市〟に溶け混ざる、という。  
〈塵腫（チェンジョン）〉と呼ばれる伝染病で放棄された都市がある。私は元々、そこで都市改造計画の補佐を担っていた。十年近く前のことだ。  
　まだ青年と言って差し支えなかった私は、ひとつの計画を立案した。それは当時急務になっていた緑化と資源の良質な循環、持続可能性に焦点を当てた代物で、環境に散布された微小混成器官（ナノキメラ）に任意の音声入力を行うことによって、影響下にある微生物や植物の自生と修復をコントローラブルに実行できた。計画はコンペティションに提出され、最優秀賞を得て実現の機会を得た。試験的に都市の一部を買い取り、新たに建設した観測所を中心に直径一キロに渡って設備を整え、一年の期限をつけて運用が始まった。計画の名は、〈音律性生命環境（ヴィタ・アルモニカ）〉と言った。  
　結論から言うと、計画は半ばで頓挫した。緑と静寂の理想郷（ユートピア）は暗黒世界（ディストピア）と相容れない。わかっていたことではあったが、相応の失望はあった。それらは見えない糸、不可視の引力として捉えられる。気がつく頃には絡めとられ、宙吊りのまま絡繰になる。  
　事物の流動は残酷なもので、終わったことに縋っても救われることはない。ただ、幸か不幸か、それから間もなくして〈塵腫（チェンジョン）〉の爆発的流行が始まり、都市そのものが放棄された。塵芥（じんかい）の灰となりゆく終末の都市景は、不思議と元からそうであったようにも、予め計画されたことのようにも見えた。心残りは捨てていった。どこに居を移したところで、心躍る日々はもう二度と訪れないと私は密かに悟っていた。  
　転機は七年後に訪れた。気紛れを起こして何かのパーティ──新都市の新たなシンボルの発表会だったか──を訪れた時、偶然居合わせたお偉方のひとりが私の存在に気づかぬままこんなことを言った。  
　投棄都市の一部から、緑地が広がり続けているようだ、と。  
　当時、私はすでに前職を離れており、幾つかの仕事を掛け持ちしながらフリーランスとして活動していた。だから〈音律性生命環境（ヴィタ・アルモニカ）〉の情報にアクセスする権限も失っていたし、何より観測所を含めてまだ生きているとは思ってもいなかった。お偉方はこのように続けた。「一度、観測員を派遣してはどうでしょう」  
　私は一も二もなく食いついた。私が行きますよ、と食い込ませた牙を離さぬように割って入った。こんな生活はもううんざりだと思っていた。都市にも歌は存在したが、私が望むものにはなり得なかった。喧騒と暗闇でなく、静寂と光明をこそ欲していた。もしも彼女がまだ生きているなら、今しかないと確信していた。  
　厄介だったのは、フリーランスでありながらも、私が研究者としてそれなりの権威になりつつあったことだ。特許もあったし、肩書きと役割の枷があり、だから周囲の多くはあらゆる手で私をその無謀な旅から引き剥がそうとした。もちろん応じてやる気は微塵もなかった。  
　唯一家にも呼ぶ間柄だった後輩の尹璃沙（イン・リーシャ）も私を説得しようとしたひとりだったが、諦めるのは誰よりも早かった。高級高層マンションの二十七階。街明かりだけを光源にして、私たちは休日の夜を飲み明かしていた。すべての生活の光、あまねく文字と意匠の冷たい明かりの中を人々は絶えず泳ぎ続ける。私たちはそれらを創造したが、いつしか抗いがたい連関の中に呑み込まれ、こんなはずじゃなかったと呟きながら溺れていく。話が終わり、私はブランデーを飲み干す。「よくわかってる」私が言うと、彼女は曖昧な笑みを返す。  
　そうして私はここにいる。ただひとりの観測員、終点に駐在するひとりの逃亡者として。  
「煜艿（ユゥナイ）」  
　十時。〈律鳴〉を弾く第一の周回（ルーティン）を終えた少女に声をかける。一見無秩序に見える植物の繁茂、しなやかな茎と伸びやかな枝、艶やかな花たちがつくる小径を抜けていく。〈律鳴〉 とは植物による他感作用（アレロパシー）の一種の変形であり、煜艿（ユゥナイ）の放つ歌声が〈音律性生命環境（ヴィタ・アルモニカ）〉内部の植物、そこに潜む微小混成器官（ナノキメラ）に指令を与え、生育指標に応じた他感物質（アレロケミカル）の生成を促すことで環境を制御する。私たちの目では捉えられない、意志とも呼べない原則（ルール）によって成長と分布は制御され、その根源とも呼べるものは人の形をとっている。歩みを止め、呆然とした様子で直立する少女は、私の声にわずかに震える。「休憩にしよう。おいで」静かに頷き、幼子のように私の背を追いかける。  
　煜艿（ユゥナイ）──彼女はたんに〝端末〟とも、〈調律者（アルモニケ）〉とも呼ばれている。〈音律性生命環境（ヴィタ・アルモニカ）〉の枢要であり、以降開発されることのなかった制御機構のプロトタイプ。十年に渡って緑地の拡大と都市の浄化を担い続けた働き者であり、私にとってはある種の象徴（シンボル）でもある。  
　錫杖を置き、テーブルで向かい合ってみると、生気のないところを除けば人間と相違なく見える。テクノロジーはひとつの信仰で、私は都市に創世のレイヤーを幻視していた。神話を生みたいというのであれば、イメージは何よりも重要になる。人々が受容しやすく、社会に馴染みやすく、それでいながら変容にも絶えうる形を求めた結果が煜艿（これ）だった。現実味（リアリティ）と可変性（デフォルマシオン）。両立には、神秘を一滴垂らすのが良い。  
　白を基調とした観測所は、十年の時を経ても綺麗なままだ。長期間の運用を想定して〈音律性生命環境（ヴィタ・アルモニカ）〉の生命循環に建物自体が組み込まれており、適宜代謝を行うことで恒常性を維持するよう設計されている。微小混成器官（ナノキメラ）は施設の壁にも床にも静かに潜み、天使の歌声ひとつで永遠の夢を私に見せる。傷はそのようにして癒される。一切の憂いを忘れ、ただ深く息をする。  
　私はマグを傍らに、十二時までの二時間ほどを読書や写生（スケッチ）に費やすと決めている。単調な日々でこそ強固なルーティンは意味を持ち、生活の引力、直線的な時間を先に導く澪標（れいひょう）として私の生を牽引する。この時、外的な入力は少なければ少ないほど良いとされる。もちろん、これは持論でしかない。  
　その点、煜艿（ユゥナイ）は相手として最適と言えた。彼女は決して対話をすることがない。改良や機能の増強を行う以前に計画ごと破棄されたため、〈音律性生命環境（ヴィタ・アルモニカ）〉への入力以外の発声機能を備えておらず、都市で人気を博していた〈良き隣人（グッド・ネイバー）〉シリーズのような飲食循環機能も備えてはいない。意思疎通にも見える応答は無言の肯定と否定のみであり、定刻に〈律鳴〉を奏でる他に自律的な行動は発生しない。それは一種の相互不理解、不通ゆえに生じる天啓のような側面を持ち合わせてもいる。  
　煜艿（ユゥナイ）は私に天啓を、あるいは希望や夢と呼ぶべきものを見せてくれた。彼女は身体それ自体が小型の〈音律性生命環境（ヴィタ・アルモニカ）〉──機械と生体の混成器官（キメラ）として開発されており、自身の内部でエネルギーを効率的に循環させ、大きな損壊、外傷がない限りは、最低でも五十年は稼働可能と言われていた。このように機能的な複雑性・多目的性を排し、しかしその結果、人々が都市を去った後も七年に渡って細々と活動ができたと思うと奇妙な感慨が湧いてくる。役が増えれば鎖も増える。だからその重みで沈む前に何よりも重要なひとつを選び取らねばと、そう考えたから私は今ここにいる。馬鹿げた感傷、証明不能の結びつけとわかっていても、象徴が象徴としての多義を保つように、愛着はなんとも歪な夢を見せるものだ。今はそれが、何よりも心地良かった。  
　窓から覗く空は、今日もよく晴れている。日差しが部屋を緩く温め、未だ浄化の目処も立たない灰色の街並みを忘れさせる。生命の絶えたような静けさの中でしか感じられない存在があり、秘境の寺院や早朝の教会でしか掴み取れない感覚がある。おそらく私は今それらのすべてを手にしている。彫刻じみた天使があり、果実を結んでは循環する濃淡豊かな色彩がある。いつか滅ぶ因果には安らぎがあり、滅び方を選べる者は幸いである。  
　午後になると煜艿（ユゥナイ）は再び〈律鳴〉を響かせるべく外へと向かう。私は彼女が残す均質の足跡を追って運動と観察を兼ねた散歩に勤しむ。揺れる裾を見つめ、靡く髪に触れてみては、空を見上げて手を翳す。錫杖が大地を叩く度に植物たちはその身を震わせる。環境に適応し増殖してはあらゆる管を駆け巡る微小混成器官（ナノキメラ）が、煜艿（ユゥナイ）の声、密やかな音律に耳を澄ます。譜面ごとに異なる物質を生成し、ホルモン様物質を変動させ、指向性を与えては外へ外へと広がっていく。石突きのリズム、三日月の弦と歌声がもたらす生命の調和（ヴィタ・アルモニカ）。  
　私は夢想する。明彷静（ミン・ファンジン）という女も、いつかはそこに交わることができるだろうか。都市（ただしさ）からの落伍者でも。  
　日暮れ頃には来客があった。書籍や食料等の物資は二週に一度、尹璃沙（イン・リーシャ）が担当し、わざわざここまでやってくる。倉庫に〈集装馬（クーリエ）〉を格納し、防護服を脱いだ尹と荷下ろしを済ませてから、束の間の茶会へと招待する。煜艿（ユゥナイ）はまだ仕事中だ。私たちは自然と向かい合う。  
「砂糖はひとつ、と」  
　コーヒーをふたりぶん。彼女は礼を言ってマグを受け取り、スプーンで五度掻き混ぜてから口をつける。「お元気でしたか」「もちろん」「少し痩せたような気がします」「君は毎回そう言うね」「書籍は独断と偏見で新しいものを補充しました」「それについては感謝している」彼女は重ねて言葉を繋ぐ。「いつまで、ここにいるつもりですか」  
「死んでも、だね」  
　常套句と呼べるものは二人の間で出尽くしている。彼女は私という個人の一端を形はどうあれ知っており、知った上で、あのような別れを経た上でなお、私の元へとやってくる。私たちは決して、その理由を言葉にはしない。  
　私たちの間には常に沈黙がある。いつ出るべきかと機を窺うような臆病者ではなく、最初から存在したかのような厚顔無恥さで横たわる、言語に依らない歌がある。周囲の音に耳を澄まし、それを音楽と主張しながら、思考の渦を旋律に乗せて朗々と謳歌する。いつかのブランデーに喉を焼かれ、明滅する都市光（まちあかり）に目を潰されようとも、かつて共に見た夢の残滓は頭の中でいつまでも流れている。しかし同時に、私たちは目蓋を開き、盲目のままこう悟る。隣り合っていた日は昔日の彼方に歪んで霞み、私たちはもう幻灯機の映す空想では生きてゆけないのだと。  
　尹はマグの中をしばし見つめてから、ふと顔を上げて、斜陽の裂く窓辺へと視線を向けた。〈律鳴〉の響き。遠く煜艿（ユゥナイ）の頭が覗き、ゆったりとした足取りで窓枠を端から端へと歩んでいく。「あの子は」彼女は呟き、一度口を閉ざしてから吐息をこぼす。「いつ見ても、美しいまま」  
「そうだね」私は呟くように同意した。「彼女だけが、永遠に似ている」  
　一定の周期を積み重ねること。私たちはそこに果てのない地平を幻想し、己では掴めない何かを仮託していく。いつかの終わりを仮定し、そのために選ばなければともがく醜さを知っている。であれば、もしも──もしも、真に無窮を内包する存在があるのだとしたら、彼女たちは凪いだ美しさのまま、硬直していられるだろうか。彫刻や、それと類似した摂理のように。  
　昔、尹がまだ私を説得しようとしていた頃、「まだ若いのに、どうして」と問われたことがある。私は三十代の前半で、研究者としても個人としても、そこから更に上を目指していける年齢だった。彼女の疑問はもっともで、けれど私は首を振って否定した。まだ若いからだよ、と。  
　息苦しさ、と形容されるものが私の中にあったわけではない。ただ、漫然とやり過ごすばかりの清潔な泥沼、汚染された聖なる泉に身を浸し、絶え間なく生の感触を失っていくのが恐ろしかった。漠然とした感覚だ。説明には、骨が折れる。  
　煜艿（ユゥナイ）の姿が消える間際、螺旋を描くように水面を揺らして私は言う。「あれは私がどう在ろうとも、気に留めることなく〈律鳴〉を刻み続ける。私は硬直し、弛緩し、融解し、悪臭を放ちながら寝台に床にと広がっていく。虫が沸き、施設を彷徨っては外へと飛び出していく。私は循環の一部になる」  
「見つけるのは」  
「君だね」  
　きっとそうなる、と期待を込めて付け加える。そのような関係でしか、もう人と繋がっていることができないのだと。  
「滅び方を選べるうちが華だよ、尹博士。機を逸したら、二度はないものだ」  
　生きたまま死人になるよりずっといい、と私は言った。心からの言葉だったが、彼女はただ緩く首を横に振るだけだった。  
「あなたにとって、ここは地獄でしかなかったのですか」  
　二十七階のあの部屋で、宙を過（よ）ぎる拡張広告無人機（ホロ・ドローン）の冷めた光が私たちを切りつけていた。尹はソファの傍らに立ち、明暗の境界から私を見下ろしている。  
　私は声も上げずに、笑う。  
「よくわかってる」  
　いつかのブランデーを飲み下し、焼ける喉の奥底から、掠れた悲鳴を歌い上げる。曖昧な笑みはとうに消え、私はひとりで死んでいく。  
　十年間、誤魔化し偽り隠してきた、未だ覚めぬ夢の合間で。  
　去り際、尹は一度振り返り、ごく短い抱擁をした。「あまり悲しそうな顔をするな」苦笑すると、「あなたのせいです」と囁きが返った。「また、二週間後に」  
　身軽になった〈集装馬（クーリエ）〉に乗り、燃える紫紺へ向けて緑の中を遠ざかる背は、見えなくなるまでずっと、そのままであり続けた。  
　日が落ち、煜艿（ユゥナイ）が一日の任を終えて施設に戻ってくると、私は再び対面に座し、簡単な夕食（ディナー）を堪能する。記録をつけ、ささやかな雑事を済ませ、煜艿（ユゥナイ）を部屋に招いて寝台へと横たわる。彼女は閉じられたブラインドの奥に広がる夜の闇を見透かしている。私たちは境界を失って、ひとつになって溶け混ざる。  
　すべてが終わった時、最後には煜艿（ユゥナイ）だけが残るだろう。けれどその光景はきっと、この世のどんな場所よりも理想的な緑の楽園になるはずだと確信している。歌が生命を運び、塵芥の灰に呑まれた終末の都市を覆っていく。明彷静（ミン・ファンジン）が、かつては尹璃沙（イン・リーシャ）もが求めた景色を、選択の意志すら持たない純粋機構がもたらすだろう。私にとってそれは、唯一残された死にゆくための意義だった。  
　瑕疵のない循環、半永久的な持続可能性の円環（ウロボロス）に私はいる。すべての選ばれた生命、その調和（ヴィタ・アルモニカ）の果てを夢見ている。私は煜艿（ユゥナイ）がつくり上げたただひとつの音律を憶えている。私はいつものようにその歌を口ずさむ。やがて明日が訪れて、調和の日もまた近づいていく。煜艿（ユゥナイ）はいつまでも私を知ることがない。  
　それでも確かに、私はここで息をしている。

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## ![NOVEL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/modal_title_02.png)![NOVEL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/modal_title_02_sp.png) 海月の降る空、泳ぐ空 著者貫ク 藁矢（ツラヌク ワラヤ）

[設定画はコチラ ![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/icon_arrow1.png) ](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/fin_item_pdf1-1.pdf)

　橙、黄、紫、白、赤、紺。  
 　色が、支離滅裂に、僕のまわりを落ちてゆく。  
 　幼稚園の工作で、色とりどりの折り紙を千切って混ぜて散らしたように、あるいは、昔の偉大な画家が試したように、画素（ドット）の一粒一粒は、手でつまめるほどに粗い。 けれども意識を一歩下がらせて見れば、それは静かな森に降る木漏れ日であり、温もりや、匂いまでもが嗅ぎとれる。  
 　陽光のシャワーの底で、一頭の生き物が昼寝をしている。  
 　キリンに似たそれは、長い首を地面に横たえ、気持ちよさそうに寝息を立てる。 新雪みたいな綿毛に全身を覆わせ、背には大きなこぶがあり、こぶにはドアと、丸く可愛い窓が穿たれている。  
 　エルムール。僕の愛しの住居生命（リスタイル）。  
 　首の付け根にはどんぐり状の実がなり、柔らかな光を帯びている。  
 　これだ。  
 　これが海月（くらげ）の怒りに触れた。でも、悪いのは海月だ。  
 　眠るエルムールの脚が、地面に根を張っている。その隣に、硝子の破片みたいな柱が浮いている。柱の高さは、首を伸ばしたエルムールのさらに倍はある。端面はぎざぎざに鋭く削れて、全体は真っ黒で、太陽をほとんど反射しない。  
 いつ見ても異形の住居生命（リスタイル）。 寝ているのか起きているのか、本当に生きているのかすら、わからない。  
 　試しに根本を叩いてやると、底のない洞窟みたいなこだまが響く。でも反応はそれだけだ。  
 　海月はまだ帰っていない。

＊（プラネット）からログアウトする。  
 　がしゃしゃ、と、砕けた食器の悲鳴が響く。階下では両親がまだ諍いを続けているらしかった。母の金切り声が家を震わせ、僕は思わず耳を塞ぐ。  
 　……あんたみたいな男とわかりゃ、結婚なんてしなかった……  
 　……よかろう、ならば革命だ……  
 　……そういうのはもう、うんざりなのよ……  
 　僕は窓を開け放って夜空を仰ぐ。  
 　広々とした黒を背に、輝点が無数にきらめいている。しかし星々は互いに間合いを計らって、像を結ぶことはしない。  
 「まだ怒っているのかよ」  
 　と、僕は恨み言をつぶやく。  
 　海月、早く帰ってきてくれよ。

◇

　授業が終わってすぐ学校を出る。  
 　義務教育の辛いところで、週に2日の対面授業（リアルクラス）は通学をしなくてはならない。  
 いま、僕の街から一番近いのがこの学校だった。  
 　校舎は丘の上にあり、帰路を下りながら、岬と海が見渡せた。  
 　海岸をなぞるように、あるいはその境界をわざわざ確かめるように、国道が一本横切っている。陸側には大小のサイコロを並べたみたいな港町。岬は湾の向こうにあって、岬からは一本の艀が伸びて、海上にもう一つの街が、僕の街が漂っていた。  
 　それは、筏をつなげた街だった。  
 　筏のひとつひとつが家である。  
 　筏の家は単独でも自律した生活ができたが、それらの家は寄り集まって、群れをなして、ゆるやかに海上に街を現していた。  
 　街のあちこちには温室があり、太陽の光と海水とで野菜が育つ。公園もある。街の端には風力発電柱が林を作り、沖に向けては、波力発電帯が幾本も触手みたいに波間を漂う。  
 　いま、街全体はマシュマロを敷き詰めたみたいにふわふわしている。家や筏をつくる建材の菌糸が、発芽期を迎えようとしているためだ。一歩一歩が揺れるのは、街が海の上にあるだけでなく、これら気胞嚢が街を不安定にしているからだ。  
 　あちこちで膨らむ気胞嚢の、はち切れそうな半透明の膜の表皮に、雪の結晶みたいに葉脈が這う。手のひらほどの綿毛が街中に舞い、人々は気持ちまで春みたいに弾ませている。  
 　でも、僕にはそれが大きな問題だった。  
 　僕、というより僕の家。  
 　選択肢はいくつかあるが、発芽を遂げた筏の家は、街から離れることが多い。空に浮き、風に乗って飛べるようになるためだ。そうして海を離れた筏の家は、またどこかで集まって、空の上に街をつくる。父はそこを目指そうと主張していた。  
 　母はそれが気に入らない。  
 　母は、いっそ家を沈めて海中魚礁にするとまで言い出している。  
 　家が街から離れる前に、家族がばらばらになりそうだった。

◇

　玄関を開けたらダッシュして、二階の部屋まで駆け上がる。  
 　窓を開いて風を迎えて、天井のカーテンをめくって陽光を取り込む。こうすることで、わずかであれ部屋の空気を活性化する。  
 　陽が、マテバシイの苗木にあたる。もらったばかりのそれは、棚の上のガラス瓶のなかで気持ちよさそうに根を伸ばしていた。  
 　それから僕は＊（プラネット）にログインする。

「お。久々～」  
 　いきなり海月（くらげ）の呑気な声。僕はほっとしたのを悟られぬよう、語気に最大限の怒りを込める。  
 「お、ひさびさあん。じゃあないんだよ」  
 「雲はさ」  
 　と、海月は気にせず僕の名前を呼んだ。  
 「もう学校終わった時間？」  
 「ちょうど家に帰ってきた」  
 「いいなあ。こっちはあと一時間で授業。ようやく朝飯食べたとこ」  
 　＊（プラネット）はオンラインゲームのひとつだ。生活ゲーと呼ばれるジャンルで、仮想的な世界の中で生活を楽しむ。目玉のひとつはLiving Life、Li＊iL（リスタイル）と呼ばれる住居生命を育てることだが、僕も海月も、世界の隅に引きこもり、冒険も交流もせず、ただ居眠りだけさせていた。  
 　僕のLi＊iL（リスタイル）＜エルムール＞は、今日も木漏れ日を浴び、横たわる。真白く豊かな毛並みが寝息に合わせて上下する。その首元のどんぐり状のランプを、海月が撫でた。  
 「これ、一個欲しくなったな」  
 「いちいち断らなくてもいいよ」  
 　と、僕は応える。  
 　それは海月なりの謝罪で、これで話はおしまいなのだ。  
 　どんぐりが、僕たちのケンカの原因だった。  
 　Li＊iL（リスタイル）の姿は現実を映す。その対象にはプレイヤー自身も含まれるが、主には家だ。僕の部屋に置いたマテバシイのゲノムが＊（プラネット）にも反映されて、エルムールに実を付けさせたのだ。  
 　マテバシイの苗木は、丘の上の学校で、クラスメイトがくれたものだった。それを海月に報告したら、僕の話し方が悪かったのか、すっかり機嫌を損ねてしまった。  
 「結局現実（そっち）の友だちの方がいいんだろ」なんて子どもみたいに、まあ実際子どもなんだけど、拗ねる海月は面倒だ。「えっ、もしかしてカレシ・カノジョってこと？ オっトナ～」などと囃すのはまだしも、挙句にどんぐりを指して「キモチワルイ」とまで言われれば、流石の僕も許せない。  
 　それで、ケンカになった。  
 　だけどちょっと時間が経てば元通りなのは海月の良いところだ。  
 　ちぎり絵みたいに粗い画素（ドット）で描かれた海月は、どんぐりランプを脇に抱えて、真っ黒なLi＊iL（リスタイル）を器用によじ登っていく。海月のLi＊iL（リスタイル）の肌はやっぱり黒曜石みたいに無機質で、なめらかで、ゲームとはいえどう登れているのか不思議ではある。  
 　海月のLi＊iL（リスタイル）は呼吸も見せない。  
 　それは、海月の住む環境がそうだからか。

「昨日さ、月を見たんだ。航海に出て、初めて見た。あれを満月と言うのかな」  
 　と、黒いLi＊iL（リスタイル）の中腹くらいで海月が言った。  
 「浮きみたいだった。どこまでも続く海みたいな夜に、球が白く浮かんでさ」  
 　海月は船に乗っている。僕が暮らす街と同じで、いくつもの筏の家が集まって、 一艘の船を成しているそうだ。エンジンもあるけど、基本的には帆走で、船足は遅くて、旅はもう何年にもなるらしい。その大きな帆が太陽を浴びて輝く姿は壮観だと、海月は何度も自慢した。  
 「俺の名前、海月だろ。クラゲはさ、海に浮かぶ月みたいに見えるから、＜海＞に＜月＞って書くんだと」  
 「えっ。海月の名前、海のクラゲが由来だったの？」  
 「当たり前だろ」  
 「当たり前かな。火星人とか、そういうのからかと思ってた。火星人はクラゲに似ているんだろ」  
 「知らねえよ」  
 「知らないのかよ」  
 「名前、母さんがつけたんだ。死んだ母さんは海が好きでさ。いつか俺と海に行きたかった、そう言って死んでさ。親父はそんなの間に受けちゃって、俺を連れて船に乗ってさ。そんでまあ、イマココってわけ」  
 「いい話じゃん」  
 「よかないよ。親父が叶えたいのは母さんの願いで、俺のじゃない。親父は自分の満足のために、俺を利用してんだよ」  
 　しばらく前に、海月が僕のクラスに来たことがある。オンラインのクラスは自由だから、世界のどこの授業を受けてもいい。だけど海月は＊（プラネット）の様子とは別人みたいに、一言も話さなかった。  
 　青と黄の画素が集まるのを離れて見れば、緑になる。だけど、青と白なら水色だ。メタゲノムに同じものがないように、同じ要素を含んでも、要素の集まりがつくる空気は別物になる。そしてそれは移り変わる。ある場所に仲間ができても、その場所から離れれば、場所に流れる時間は僕の時間とは変わってしまう。  
 　船に乗せられ、故郷と切り離された海月は、新しい仲間を怖がっていた。  
 「海月の船は、もうそろそろ着くんでしょ。着いたらどうする？」  
 「着いたら、ずっとその場所で暮らすんだ。親父は、旅が豊かさだって俺に言う。でもさ、その場所に居続けることもまた旅だと俺は思うんだよな」  
 　森に根を張り、眠り続けるエルムールの背に寝転びながら、僕もうなずく。  
 「だけど」  
 　と、声を落とす海月の手に、どんぐりはもうない。いつの間にかLi＊iL（リスタイル）に与えたようだ。海月の黒いLi＊iL（リスタイル）は身じろぎ一つしないので、わからなかった。  
 　海月のLi＊iL（リスタイル）は、海月が船のゲノムを与えて創ったそうだ。そのことをやはり海月は自慢したが、黒いLi＊iL（リスタイル）の不気味さに、僕は未だに慣れることができない。  
 「新しいところは、不安だよ。俺はうまくやれるかな」  
 「船にも仲間はいるんだろ。いまの仲間と力を合わせて、橋頭堡を築くんだ」  
 「キョートーホ」  
 「根っこみたいな。まずは足場を固めて、そこから枝を伸ばすんだ」  
 「船の仲間ともいつか、バラバラになってしまわないかな」  
 「そのときには僕がいる。僕はいつでもこの場所で待つ」

◇

「よかろう、ならば革命だ」  
 　と、父が言い放つ。酔って気分が良くなったとき、何かに怒りをぶつけるとき、折りに触れ父は革命を口にする。今回の場合は、母に追い詰められ、答えに窮してこの言葉が出た。悲鳴とも言える。  
 「上等だわよ。革命、やってもらおうじゃないの。口先ばかりはうんざりなのよ」  
 「だ、だが、この家を海に沈めるとはあんまりだ。雲はどうなる」  
 　と、さらに困った父は僕の名前を出して、誤魔化そうとした。  
 「そうね、それは言い過ぎた。だけどやっぱり思うの。原因はこの家にある」  
 「生活のことだけじゃないぞ。この家には君と僕と、そして雲との思い出がある。それを沈めるなどと」  
 「だからって、仙峡市に住むだなんてあんまりよ。話が違うわ」  
 　仙侠市とは、父が移住先に選んだ空中都市だ。富士山の上空五千メートルくらいを漂っている。発芽した筏型住居は空に舞い、空でまた群れをつくって、街になる。仙侠市もそうして成長を続ける都市だった。  
 「この近くの空ではいちばん安定しているんだよ。僕は雲に、世界の広さを見せてやりたい」  
 「安定？ はっ。語るに落ちたわね。あなたは変わった。変わってしまった」  
 　母がさめざめと泣く。  
 　それから母は、うつむいたままの僕を見た。泣き顔のためか、睨まれたように僕は感じる。  
 「雲を言い訳に使うのはやめて。あなたを、そして雲を縛るくらいなら、やっぱりこんな家なんて」  
 「家を悪く言んじゃない。ここは雲の育った、雲を育てた家なんだ」  
 「それでも、ここはいつまでも雲の家じゃない」  
 　その母の言葉に、僕の体温が一気に冷える。すうっと、身体を巡る血が沈む。  
 　ここは僕の家じゃない。  
 「なあ、雲。雲はどうしたい？」  
 「そうね。世界中を旅したい、雲は昔はそう言っていたけど、いまはどうなの？」  
 　父と母の期待が僕に絡みつく。  
 　僕が決めるのか？ 僕の答えが、僕の言葉が、この家の浮沈を決めてしまうのか？  
 　口を開くが、言葉が出ない。  
 　代わりにこんなセリフが漏れた。  
 「僕は友だちを待たなければならない」

　家を飛び出した僕は、夜の街を駆け抜けた。  
 　発芽間近の街はいつもに増して弾力があり、思わぬところで足が跳ね、そうかと思えば蹴った力が地面に染みて、夢の中を走るみたいに前に進みにくかった。  
 　バクテリア灯の青白い光が、暖かな夜を静かに冷ます。  
 　息を切らして立ち止まる。  
 　すると、頭上で何かが閃いた。  
 　顔を上げれば、期待した星空がそこにない。  
 　太陽、いやそれほどの強さはないが、巨大な光芒が夜を破って、空を昼に塗り替えていく。  
 　だけどそれは一瞬の出来事で、光はやがて絵の具を飛び散らせたように、誕生日会のクラッカーが弾けたように、暗さを取り戻した空全体に広がっていく。  
 　流れ星？ ちがう。  
 　あれは、海月（くらげ）の船じゃないのか。  
 　火星からはるばる地球を目指した海月の帆船。突入に失敗したのだ。海を見ようとして、旅の終わりに、ばらばらに砕けてしまった。

◇

「最初からさあ、普通の往還船に乗ればよかったんだ。最新の核磁気エンジンなら三週間だぜ、三週間。火星から地球まで」  
 　と、愚痴る海月（くらげ）の様子はいつも通りだ。  
 　巨大な太陽帆でゆっくりと地球を目指した海月の船は、突入角を誤り、大気圏で分解した。船はいくつもの筏型住居が集合してできていたから、それぞれの家はばらばらに地表に降りることになってしまった。海月が着水したのはブラジル沖のあたりらしい。  
 「家には住み続けるの？」  
 「少なくとも親父はな。母さんと暮らした家だから、そのままいっしょに地球に来れて喜んでるよ。それにしても、海ってこんなに揺れるのな」  
 　海月の酔いを反映してか、海月を肩に乗せた黒いLi＊iL（リスタイル）も、心なしか気分が悪そうだ。  
 　黒いLi＊iL（リスタイル）の身体は、それまでのガラス質から、海藻を煮詰めたような、有機的な質感に変態していた。海月のLi＊iL（リスタイル）は、船の外装のゲノムを反映したものだった。黒カビの一種で、宇宙線を吸収し、大気圏突入時には熱に耐える。それが旅を終えて、海に馴染みはじめたらしい。地球環境の菌糸ネットワークとも親和したからか、表情が汲めるようにもなっている。  
 　ふいに、僕のエルムールが目を覚まし、ぐうんと長い首を持ち上げた。  
 　深いあくびをして森の香りを呑み尽くすと、身体を震わせ、屋根に積もった雪が滑るみたいに、白い綿毛をばさりと落とした。エルムールの、美しい斑模様の肌があらわになる。それは色とりどりの質感で、おもちゃ箱を広げたように雑多で、これまでに出会い、僕をつくった友だちたちを表している。首筋から尾まで流れる気高い黒は、海月のLi＊iL（リスタイル）からうつったものだ。  
 「悪い、ちょっと外すわ。故郷の、火星の奴らが心配して、連絡くれてて。  
 それに、最後の船の仲間も消息がわかったんだ」  
 「ん。僕もそろそろ時間みたいだ。海月がこっちに着くのはいつごろ？」  
 「二ヶ月くらいかな。海流次第らしいけど」  
 「わかった。待ってる」

＊（プラネット）からログアウトする。  
 　庭に出ると、家の筏の気胞嚢はいよいよはち切れそうに膨らんで、文字通りにうずうずと震えているのだった。  
 　菌糸を編んで作られた凧が、街のあちこちから空に揚がる。凧同士は空中で緩やかに結び合い、さらに大きな凧になる。その肚に風をいっぱいに孕んで、傘のように丸くなる。  
 　父が、凧の綱をしっかりと支える。  
 　傍らの母はそんな父にうっとりとして、僕の方が恥ずかしくなる。いい年して、やめてほしい。  
 　無政府主義者の父は、若い頃はトレーラーハウスやら筏やらで、母と世界を旅していたらしい。それがいつのまにか丸くなって、大都市だ、安定だなどと言い出して、と母は嘆いていたのだった。  
 　ふたりの背中を見て育った僕も、いずれ旅に出るだろう。  
 　だけどいまは、この場所で待つことが僕の旅なのだ。  
 　そう伝えると両親は、まるで憑き物でも取れたかのように和解した。「そうそう、背中。背中だよ」「私もそれが言いたかったのよ」  
 　そうして、二人は旅立つことに決めた。行き先は決めていないらしい。  
 　家の半分と、気胞嚢の全部とを両親が、残りを僕が引き継いで、僕はこの海に残る。

　強い海風の一団が凧に体当りして、海上の街からいくつもの筏の家を引き抜き、飛び上がらせる。すぐに気圏までも突き抜けそうな素晴らしい加速で、今しがた手を降っていたはずの父と母も、もう空高くにさらわれている。  
 　いくつもの筏の家が空を満たす。淡く白い傘状の帆が、青空を背に点々と漂う。それはたんぽぽの綿毛のようでも、飛行する海月の群れのようでもあった。やがて、それらはいくつかの集団にまとまり合って、それぞれの空を目指して、泳いでゆく。  
 　離床の際に巻き上げられた海水が霧をつくり、視界を霞ませるが、僕は、手を振り続ける父と母から目を離さない。  
 　家は、いったんふたつに分かれてしまった。  
 　でも家は、僕たちの旅に合わせて形を変えて、僕たちがどこに在ろうとも繋がりあって、場所をつくる。僕はいつでも帰れるし、僕はいつまでも待つことができる。  
 　霧が晴れると、水平線の際から、いくつもの点がこちらに流れてくるのが見えた。点のひとつひとつは筏の家だ。  
 　橙、黄、紫、白、赤、紺。  
 　どの家も違った形と色をしている。それらがゆっくり集まってくる。  
 　離床により全体の三分の一を失った街は、残された筏を再編成し、それから若い、新たな家を迎え入れる。そうして街は新たな場所になり、新しい暮らしを抱いて、新しい旅をはじめる。  
 ＜了＞

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## ![NOVEL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/modal_title_02.png)![NOVEL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/modal_title_02_sp.png) 循環する都市 著者神殿 真数（カミドノ マサカズ）

　遠方から望む“それ”は、一本の樹木に見えたかもしれない。実際、その認識はあながち間違いでもない。東の空に昇る太陽に照らされた“それ”は、渇いた大地に細長い影を落とす。  
 　浴びる朝日を乱反射させて燦然と輝くのは――垂直に伸びる巨大な都市であった。

　中東、ペルシャ湾沿岸部に広がる砂漠地帯に、奇妙な構造を持った都市が姿を現す。  
 　円形に配置されたビル群が褐色の大地に丸を描き、筒状に聳え立っている。  
 しかし、それだけではない。生え伸びるビルの群れは、同じ高さで一様に切り揃えられ、その上から更にビル群が生え伸びている（、、、、、、、、、、、、、）のだ。上層と下層を隔てるように『地面』が形成され、高さ三〇〇メートルを一区切りにして、街が上へ上へと積み重なっている。節を持つ竹の幹のような構造体だ。  
 　奇怪な階層構造を繰り返すこと計五層。最上部で枝分かれした構造体の先には、緑色をした半透明のパネルがひしめき合い、樹木の葉がそうするように、光を求めて青い空を覆っていた。  
 　砂の大地に聳え立つ白い巨木。枝葉まで含めれば、その高さは一七〇〇メートルに達する。『局所型層状都市』、通称ツリーハウス。この歪な都市構造に付けられた名である。  
 　そこに住まう一〇〇万人ほどの住民の生活を保障すべく、必要な機能を一箇所に集約したという代物だ。居住、生産、消費、そして社会機能に至るまでを一括して担う、自己完結型（スタンドアローン）の都市。それが二四世紀の現代、世界各地で目にすることのできる標準的（スタンダード）な様式（スタイル）であった。

「――ん」  
 　背中を撫でる柔らかな感触が意識の覚醒を促す。床板をしならせて緩やかにうねるベッドの動きで、シェーナは穏やかな目覚めを迎えた。  
 　白で統一された清潔感のある部屋だった。東向きの壁に空いた小窓ほどの穴からは、計算された通りに暖かな日差しと爽やかな風が流れ込み、室内に最適な温度と光をもたらす。  
 「くあっ」  
 　あくびを零し、伸びを一つ。吸い込んだ新鮮な空気に満たされて、肺が喜びの声を上げた。最適化された朝の光景に、シェーナの口元が綻ぶ。この都市に住まう全ての住民が、等しく享受することのできるいつもの清々しい朝の光景だ。  
 《3/25/2323 AM6:00》  
 　視界に浮かぶ文字列で現在時刻を認識する。時間はちょうど。  
 「おはよ」  
 　そう言ってベッドの縁に手を触れると、そこが接点となってシェーナの思考がダイレクトに伝えられる。くの字を書くように背中を持ち上げてくれるベッドから体を起こし、壁際に歩み寄った。ぽっかり空いた穴から覗く、突き抜けるような青空を見上げて満足気に微笑む。  
 　もう一度伸びをして体をほぐしてから白い壁面に触れれば、シェーナの意図をくみ取った部屋が穴を塞ぎ、遮られた陽光の代わりに照明を灯した。  
 　服を脱いで浴室に入ると、地底から汲み上げられた地下水が温水となって天井から降り注ぐ。  
 「はぁ、気持ちいい」  
 　最適な水温に包まれて、つい声が漏れた。大地の恵みに感謝してシャワーを浴びる。  
 　――大地の恵み。  
 　そう、電気も水も、この街そのものでさえ、彼女達の生活を支えるインフラは、全て自然由来のものだ。

　都市を形造る構成物質。聳え立つビル群を白く染め上げる新時代のマテリアル。  
 　それが、分子配列に植物の細胞構造を組み込んだ合成高分子、『樹性高分子（ウッドポリマー）』だ。とりわけ、頑強性を誇る竹の遺伝子を取り入れたこの新素材は、高強度と軽量性に優れ、その耐用年数は一〇〇年を超える。層状都市（ツリーハウス）の実に八割がこの樹性高分子（ウッドポリマー）によって構成され、植物由来の構造体がその巨体を支えている。  
 　枝葉を伸ばしてひしめき合う受光パネルでは光合成が行われ、得られたエネルギーが電力へと変換される。街の外観が白いのは、発電に必要な葉緑体を都市の上部に集中させているからだ。層状都市（ツリーハウス）は色彩の豊かさを犠牲に、街の全電力を賄う発電プラントを獲得した。  
 　地底に張り巡らされた取水ホースによって吸収された地下水は、ろ過と殺菌を施されたのち、道管を通って生活水として供給される。また、樹性高分子（ウッドポリマー）そのものが保水性を持つため、渇いた砂漠地帯にあっても、層状都市（ツリーハウス）は瑞々しい潤いを保っている。  
 　こうして得られた電気と水は、街そのものを媒介として五層からなる都市を隅々まで循環する。生成されたエネルギーが、都市に住まう人々に等しく再分配されるのだ。  
 　二一世紀の終わり、増え続ける人口と枯渇する資源に悩まされる人類にもたらされた希望の種子は、都市の構造を大きく変えた。高強度かつ低密度の新素材は、街を上へ上へと押し上げて都市のスリム化を成功させた。加えて、優れたエネルギー循環を実現する樹性高分子（ウッドポリマー）は、今や人々の生活に欠かすことのできないものだ。

　シャワーを終えたシェーナは、規格統一された標準服に袖を通す。シンプルなデザインの白い服は、子供から高齢者まで誰もが身に纏うこの街の正装だ。  
 　鏡の前でくせ毛がちな黒髪を梳かしながら、ツリーネットに接続して朝のトピックスに目を通す。ＡＲ型拡張視野（パーソナルビュー）で視界に表示させた公共掲示板をさらっていく。と、  
 《換層期まで一週間。備蓄や荷物の準備はお済ですか？》  
 　その文言を目にしたシェーナは、期待半分、憂鬱半分というなんとも言えない気分になった。  
 　部屋の隅に視線を移すと、赤色のキャリーバックが無造作に転がっている。  
 満載した荷物で口は閉まっておらず、入り切らなかった私物がそこらに散乱している。特にルールが存在するわけではないが、持って行くのは入る分だけにしようと、なんとなく決めていた。  
 「早く、決めないとな」  
 　身支度を整えて玄関に向かう。扉を開けると、隣の部屋から出てきた女と鉢合わせた。  
 「あらシェーナ。久しぶりに顔を見せたと思ったら、もう出るの？」  
 「おはようウィバ。荷物の整理をしに来ただけだから、またしばらく空けるかも」  
 「そう。ちゃんと進んでるの？」  
 「まあ……うん」  
 「あなたのことだから、どうせ役割（ロール）もまだ決めてないんでしょう？」  
 「う、うるさいなあ。ほら、ウィバも時間でしょ。子供達が待ってるよ」  
 　その場をはぐらかして会話を断ち切った。急かすようにウィバの背中を押す。  
 《ウィバ、一五世代、三八歳、養育者（シッター）》  
 　呆れ顔で去っていく背中に張り付けられた公開情報（オープンソース）を見送って、シェーナも道を急ぐ。  
 　記録によれば、ファミリーネームという文化は、一〇〇年前には消滅していた。  
 　ウィバは血縁でいえばシェーナの親にあたるが、二人が顔を合わせるのは稀だ。自室（ストレージ）が隣同士なのも、出産と同時に自分の部屋を分け与えるという慣例に則ているだけで、基本的には街のどこに設置しても問題はない。自室（ストレージ）に『倉庫』という以上の役割は存在しない。  
 　シェーナはシェアサイクルにまたがり、第一層のメインストリートを抜けていく。都市外縁の自室（ストレージ）からゴンドラ乗り場までは少し距離があった。体を動かしたことで感じる空腹で、朝食がまだだったことを思い出す。  
 香ばしい匂いに誘われてベーカリーに立ち寄った。  
 「これ、貰っていくね」  
 　トレイに並べられたクロワッサンとアップルパイを包装紙に包んでカバンにしまう。  
 「はいよ、持って行きな」  
 　気さくな調理者（コック）の男に手を振ってベーカリーを後にした。  
 　金銭のやり取りはない。個人にあてがわれた自室（ストレージ）を一歩出れば、そこは全て『公共（パブリック）』だ。都市に存在する全てのものは共有財産として扱われる。食べ物も乗り物もインフラも。そして、そこに暮らす人々でさえ。  
 「おねーちゃん、それ貸して」  
 　ゴンドラ乗り場でシェアサイクルを降りると、後ろから声をかけられた。  
 《ザジ、一六世代、一〇歳、初等第五級》  
 　拡張視野（パーソナルビュー）で声の主の公開情報（オープンソース）を読み取る。シェーナと同世代の少年だった。  
 「うん、いいよ。気を付けてね、ザジ」  
 「ありがと、シェーナおねーちゃん」  
 　ザジの身長に合わせてシートを調整してから譲り渡す。初めて言葉を交わした少年は、シェアサイクルにまたがると颯爽と走り去っていった。  
 　シェーナは元気な後ろ姿を微笑みで見送った。あの少年も、換層期を前にして浮かれているのかもしれない。もう準備は済んでいるのだろうか。  
 　ザジとは初対面であったが、シェーナは気兼ねなく接することができる。  
 彼がシェーナと同世代ということもあったが、それは、現代社会に根付いた新しい価値観に基づくものだった。

　樹性高分子（ウッドポリマー）が変えたのは、都市の構造だけではない。  
 　太陽光によって無尽蔵に供給されるエネルギーは、人々に平等の豊かさを与え、財産の共有という価値観を芽吹かせた。そうしてもたらされたのが、資本主義（キャピタリズム）の終焉だ。都市が生産する全ての財は住民達に還元される。物質的な資源だけではない。この街では、『家族』という繋がりさえもが公共化されている。  
 　血の繋がりという価値観は希釈され、『世代』という繋がりが新たな家族の単位として一般化した。血縁など、遺伝疾患のリスクを避けるパートナー選びの指標の一つでしかない。  
 　第一層にはシェーナ達一六世代と、ウィバのような一五世代が。第二層には一四世代が。第三層には一三世代が……。  
 　という具合に、層状都市（ツリーハウス）では各層で世代ごとの住み分けが成されている。  
 彼らにとって、同じ層で暮らす者達が『家族』であり、この街こそが『家』なのだ。それが、樹性高分子（ウッドポリマー）がもたらした究極のシェアリング社会の中で生まれた、新たな社会構造であった。  
 　そして、最上層に住む世代が老いていなくなると、彼らは順繰りに上の層へと移り住んでいくのだ。それが、二〇年に一度行われる大移動。『換層期』と呼ばれる一大イベントである。

　シェーナは、スクールへと向かうゴンドラに揺られていた。縦に伸びる都市を縦横無尽に行き交うこのカプセルは、層状都市（ツリーハウス）での主たる移動手段だ。目的地を伝えれば、複雑に絡み合うレールを伝って送り届けてくれる。人だけでなく、物資の輸送もこなす優れものだ。  
 　一組だけ置かれた向かい合わせの座席に着き、ベーカリーから持ってきたパンをかじる。眼下に流れる白い街を眺め、物思いにふけっていると、  
 《ケイネから着信（コール）》  
 　シェーナの元に届いたのは、幼馴染からの連絡だった。脳波通信（ブレインシェイク）でこれに応じる。  
 〈もしもし？〉  
 〈聞いたよ、シェーナ！　あなた、まだ役割（ロール）を決めてないんだって⁉〉  
 　頭の中に響くのは、興奮した様子のケイネの声。シェーナはつい、どぎまぎしてしまう。  
 〈えっと……うん、そうだけど〉  
 〈そうだけど、じゃない！　まったく、あなたぐらいだよ。こんな時期まで悩んでるの〉  
 〈そうは言うけど、そんな簡単に決められないよ〉  
 〈やってみて合わなかったら、変えられるんだから、ちゃっちゃと決めちゃいなよ。なんなら、わたしが変わってあげようか？〉  
 〈でも、ケイネは技術者（エンジニア）でしょ。わたし、適正なかったし〉  
 　唇を尖らせると、ケイネのきつい物言いは宥めるようなものに変わった。  
 〈それもそうか。それで、適正評価はどうだったんだっけ？〉  
 〈教育者（ティーチャー）と、養育者（シッター）〉  
 〈いいじゃん！　養育者（シッター）だったら、ウィバからも話を聞けるでしょ〉  
 〈うーん……〉  
 　教育者（ティーチャー）や養育者（シッター）は、他の世代との関りが薄い層状都市（ツリーハウス）において、次の世代を育てることができるとあって人気の役割（ロール）の一つだ。しかしシェーナには、身近なところで手堅くまとまっていいのだろうかという迷いがあった。  
 〈何その贅沢な悩み……じゃあ、他には？〉  
 〈あとは……農産者（ファーマー）〉  
 〈農産者（ファーマー）かぁ……〉  
 　何やらぶつぶつ呟き考え事をしていたケイネだったが、何かを思いついたようで、ぱっ、と声色を弾ませる。  
 〈そんなに悩んでるんだったらさ、実際に見てくればいいじゃん。今日！〉  
 〈……え？〉

　スクールでの授業を終えた放課後。  
 　シェーナは校門の前で、呆けるように虚を見つめていた。授業中もどこか浮ついていて、教育者（ティーチャー）の退屈な話は全く身になっていなかった。  
 「おまたせ！」  
 　長いブロンドの髪が視界の端で踊る。振り返ると、屈託のない笑顔を浮かべる少女がそこに立っていた。  
 《ケイネ、一六世代、一八歳、高等第三級》  
 　シェーナとケイネは同い年だが、適正評価によって振り分けられたカリキュラムが異なるため、今では別々のクラスで授業を受けている。校門での待ち合わせはケイネの提案だった。ちなみに、一五分の遅刻である。ケイネに悪びれる様子はなかったが、彼女の行動力に免じて許すことにした。ケイネの誘いがなければ、自分から踏み出すことはなかっただろうから。  
 「それじゃ、行こっか！」  
 　ケイネに手を引かれてゴンドラに乗り込む。二人だけで出かけるのは久しぶりだった。  
 「いやー、それにしてもぎりぎりだったね。換層期が始まったら、これ止まっちゃうからさ」  
 「安全性の確保と増設のため、だっけ？」  
 「そうそう、物資の供給も止まるから食料とか備蓄しないといけないし、いろいろ大変だよね」  
 　他愛ない会話に花を咲かせる二人を乗せて、ゴンドラは目的地へと向かう。  
 　街の南端部（サウスエンド）。比較的日当たりのいい区画に聳えるのが、目的の農産ビルである。シェーナは普段立ち入ることのないエリアに緊張する反面、期待に胸を躍らせていた。  
 　中を案内してくれたのは、カンナダという気難しそうな男だった。  
 　樹性高分子（ウッドポリマー）を培地化したプランターを縦に並べた垂直農法や、建物の壁面に乳製品を浸透させる保存法などを見て回ったのち、最後に通されたのが屋内牧場であった。  
 　ワンフロアを丸々使った広い空間では、白い床から直接牧草が生え、放し飼いされた牛が緩慢な動作でそれを食んでいた。のどかな風景は、とてもビルの中のものとは思えない。  
 「ちょうど換層期の準備に追われていてな。移す個体をより分けているんだ」  
 　無精髭を撫でながらカンナダが言った。  
 「そんなの、適当に選んじゃえばいいんじゃないの？」  
 　ケイネの問いに、カンナダは首を振る。  
 「牛も本来は群れで生活する動物だ。彼らには彼らの社会がある。それを乱そうというんだから、慎重にやらなくちゃならない」  
 　カンナダはその場に屈み込むと、母牛の乳房に吸い付く子牛を優しく撫でた。  
 「それに、親子の関係も重要だ。母牛以外だと子牛の吸い付きが悪いし、子を取り上げるとストレスで母牛の乳の出が悪くなる。こいつら育てているとな、時々考えさせられるよ。血の繋がりだとかについて」  
 　カンナダに倣って、シェーナもおっかなびっくり子牛に手を振れた。思ったよりも固く、僅かに湿っていた。小刻みに震える小さな命。しかし、そこに受け継がれてきた生命の脈動を確かに感じた。  
 　群れという集団としての生き方。ありのままの自然な循環（サイクル）。今、層状都市（ツリーハウス）に住まう人類はその環の中に還ろうとしている。その選択は、果たして正解だったのだろうか。  
 　ここでなら、その答えを得られる気がした。  
 　シェーナは意を決したように瞑っていた目をぱちりと開いて言った。  
 「うん。わたし、決めたよ」

「それで、どういう風の吹き回し？　またしばらく空けるんじゃなかったの？」  
 　自室（ストレージ）に招いたウィバが意地悪なにやけ顔を向けてくる。  
 「別に。役割（ロール）が決まったから、荷物の整理を終わらせちゃおって思っただけ」  
 「そう、それは良かったわ。これで無事に換層期を迎えられるわね」  
 　ウィバが向けた視線の先では、しっかり口の閉じた赤いキャリーバックが部屋の隅に置かれていた。散乱していた私物もなくなっている。  
 「ねえ。ウィバが初めて換層期を経験したのは、わたしと同い年の時でしょ？　どんな感じだったか覚えてる？」  
 「当たり前でしょう。あんな経験、一度したら忘れられるわけないわ。だって」ウィバは、もったいぶるように笑みを作る。「一日に、窓からの景色が一〇メートルも変わるのよ！」

　それから一週間後。ついに二〇年に一度の換層期が始まった。  
 　最初に起こったのは落葉だ。耐用年数を迎えた受光パネルとそれを支える枝部分が、緑の色彩を失って白く変色し、枯れ木の枝葉が落ちるように、ひらひらと地表に降り積もったのだ。それらは、地中の人工バクテリアによって分解・再構成され、次の換層期の材料になる。  
 　そう、この都市は循環するのだ。  
 　材料となる樹性高分子（ウッドポリマー）が、予めデザインされた通り新たな層として３Ｄプリンティングされ、上層を押し上げるようにして地中から生えてくる（、、、、、）。一日に一〇メートル。延べ一ヵ月を掛けて三〇〇メートルの層が新しく造られる。いわば、都市の生え変わりだ。  
 　前述した通りだ。局所型層状都市（ツリーハウス）は――垂直に伸びる巨大な都市である。

　さらに一ヵ月後。  
 　仮設第六層に残った住民の退居が終わるのを待って、ビル群がその姿を変える。樹木が枝を広げるようにビルが湾曲し、窓ガラスは受光パネルとなって緑の光沢を反射させた。これでまた、大規模な発電が行えるようになる。砂漠の巨木が、生え変わりの全工程を終えたのだ。  
 　層間エレベーターによって移送された一六世代の住民が、新しくできた第一層に流れ込む。  
 　人の流れの中で、赤いキャリーバックを引く少女が、感嘆の溜息と共に呟いた。  
 「今日からここが、私の街だ」

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## ![NOVEL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/modal_title_02.png)![NOVEL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/modal_title_02_sp.png) 有機住宅は笑わない 著者笹田（ササダ） ケンゴ

「こんにちはー、住医師の水野です」  
 「あー……ども、ありがとうございます。依頼した小山内です。……えーと、まぁ、あがってください」  
 　現場に着き、依頼者への挨拶を済ませる。あまり社交的な印象を与えない、三十代半ばの男性だ。そして、『あがってください』と言われても足の踏み場もない程に散乱している靴が、水野を困惑させた。  
 「あー……ごめんなさい、除けます」  
 　そんな水野の様子に気を遣ってか、小山内は靴を乱暴に横に寄せた。女性ものの靴や男性もののランニングシューズがザーッと音をたてて滑る。  
 「ありがとうございます、お邪魔します。いやぁ我が家もそうですが、家族が多いと靴の収納も大変ですよね。何人で住まわれてるんですか？」  
 　靴を脱ぎながら話を振る。住医師の仕事は家主とのコミュニケーションが八割と言われている。だから水野は内気な依頼者には積極的に話を振るように普段から心がけていた。  
 「両親の靴なんですけど、こないだ死んじゃって今は一人です」  
 「あ……そうでしたか、いや不躾な発言でした。お許しください」  
 　失敗した、と思った。靴が多い割りに人の気配が無いことには気が付いていた。たまたま外出中なのかと考えてしまったが、懸念した時点でやめるべきだった。コミュニケーションの大切さは知っていても、やはり自分は得意ではない、と気が沈んだ。  
 「いや全然いいです。悲しいけど、まぁ仕方ないです」  
 　"仕方ない"という言い方が、水野の発言に対してなのか両親の死に対してなのか分からないが、とにかく地雷を踏むような話題ではなかったことが分かり、水野はほっと息を吐いた。  
 「父さんが病気して、母さんが面倒みてたんですけど、父さんが死んだらその看病疲れかすぐに母さんも死んで……あー、後を追っちゃって」  
 　玄関が散らかっていたのもそのせいか、と腑に落ちた。まだ両親の遺品の整理が済んでいないのだろう。  
 「そうでしたか。お忙しい時に家が不調になられて大変でしたでしょう。早速ですが、ガスまわりの調子が悪いということでしたね？」  
 「うん、そう。風呂はぬるいし、コンロも熱くなんないし」  
 「なるほど。ガスタンクは……これですか」  
 　キッチンの隅に置かれた金属製の箱を覗く。それなりに使い込まれてはいるが、タンク自体に破損などは見られない。しかし手持ちの機器でガスの簡易分析をすると、濃度がかなり薄い。こうなると生体側に異常の出ている可能性が高い。  
 「この家は、最近ちゃんとご飯を食べていますか？」  
 「え……ふつーに毎日あげてますし、食べてんじゃないかな」  
 「ふーむ。一応外からも診察をしてみますね。何か異常があったらいけませんので」

　外観診察をおこなうために玄関に戻る。本来ならまず外観を見ておきたいのだが、まだ無機住宅が一般的だった頃と同じく、今でも他人の家をジロジロと見てまわるのは不審な行為だとされている。それに、内装ではなく生体の診察から始めると、『いきなり虐待を疑われた』と逆上する家主も少なくない。『心からあなたのお家が心配なので診察をさせてください』と分かってもらうためにも、住医師の仕事はコミュニケーションが八割なのだ。水野は新人時代にそう教わっていた。

　現在、住宅として主流になっているのは、ハウススネイルという通称を持つ宇宙外来生物である。垂直方向に巻き貝を伸ばすその見た目から、宇宙タニシとも呼ばれている。個体差はあるが高さ10メートル近くまで育ち、貝殻には地上から数メートルおきにいくつかの穴が空いている。そこを侵入口として他の生物を住まわせており、原産地の惑星においても原生生物との共生関係が認められている。”住民”に外敵を追い払ってもらうためにこのような進化を遂げたとみられている。  
 　しかし、正確に言えば背中にある貝殻は巻いておらず、ピラミッドのような階層になっている。成長に伴い下から新たな階層が隆起してくるため、頂上が最も古い。つまり巻き貝というよりは鹿や山羊の角（ツノ）に近いものである。ハウススネイルの本体は一番下の階層に収納されており、成長してそこが手狭になってくると新たな階層がじわじわと生成され、今までの階層が空き家となる。本体部を入れて四段の階層になる個体が多いため、屋根裏付き二階建て住宅として利用される。  
 　貝殻は断熱性が高く、内部は一年を通じて快適な温度と湿度が保たれている。貝殻には痛覚が通っておらず、壁面を窓に置き換えたり、殻頂部の上端を切り取って屋根裏部屋を屋上にするケースもある。  
 　また代謝の副産物として可燃性ガスを排出するため、これをタンクに貯蔵して調理や風呂に利用している。苔を好んで食べ、充分な量を与えてやればほとんど移動もしない。死んだハウススネイルの貝殻だけを住宅建材として利用するというアイディアもあったが、死後は劣化が著しいために現在のような共生スタイルがとられている。  
 　このように人間が暮らすにあたって大変に有用な生物だが、ある時、メンテナンスは家の専門家と生物の専門家のどちらがやるべきか。そもそもこれは建築物や住居に関するルールを当てはめて良いのか、という論争が起こった。  
 　その結果として生まれたのが住医師という職業である。建築と獣医の知識の両方が必要なため難関資格とされているが、物言わぬ貝類が相手ということもあり、結局現場に出てから必要なのは飼い主でもある家主とのコミュニケーションスキルだ、と同業者の間では自嘲気味に語られる。

　玄関横の階段を降りて家の頭側に移動する。不審者に傷付けられたり毒餌をあげられたりすることを防ぐため、頭部はガレージに納めることが一般的である。閉じ込めるような見た目だが、暗く狭い場所を好むハウススネイルとしては好ましい環境である。  
 　ガレージに移動するなり、水野が診察を始める。肌の色つや、触角に触った際の反応、貝殻の手触りなど、表面的には特に異常はない。  
 　しかし貝殻を削って手持ちの機器で分析すると、若干の栄養不足が認められた。やはり餌やりが不十分、あるいは不適切だったのだろう。  
 「小山内さん。確認ですが、ご飯は何をどの程度の頻度であげてますか？」  
 「え。さっきも言ったけど、この市販のタブレットを説明書どおり、毎日やってますよ」  
 　ガレージに置いてある袋を手に取りながら小山内が答える。安価で最も売れている、水で戻すタイプのハウススネイル用タブレットフードだ。  
 「それを規定量あげたわけですね。最後にあげたのはいつでしょうか」  
 「昨日の夕方頃、かな。こいつら夜行性なんですよね？」  
 「そのとおりです。でも触角の右下、あそこに食べ残しが見えますよね？一晩かけて食べ切れないとなると、食欲がないのかもしれません。この家が今年で何歳になるか分かりますか？」  
 「おれが生まれる少し前に買ったらしいんで、40年前くらいですね」  
 「大体10歳で売りに出されるので、50歳くらいですか。平均寿命が100歳ですから、体にガタが出始める頃ですね。せっかくですから、しっかりと検査しておきましょうか」  
 　注射器を手に取り採血をする。ドローンを使った全身の透過撮影、貝殻のサンプリング採取もおこなう。  
 「それから、この問診票を書いていただけますか」  
 「いいけど、買った時期とかリフォーム内容とか、そういうのおれ分かんないです」  
 「分かる範囲で結構ですよ。……あぁ、ひょっとしたらご両親の残した住宅手帳が残っているかもしれません。40年前ですと紙なのかデータなのかが微妙ですが。まぁ検査機関に送って結果が出るまで時間がかかるので、ゆっくりと記入しておいてください」  
 　そう言い残して水野は帰路についた。

　翌日、水野からの電話で小山内は目を覚ました。つけっぱなしのテレビからは、ワイドショーの火星移住計画の討論が流れていた。  
 「昨日の今日ですみません。急ぎでお伝えしたいことがありまして」  
 　ちょっと食欲がないだけで大げさなんだよ。そう思いながら目をこする。  
 「速報ですが、ほぼ間違いないと思います。小山内さんのお家は、ウィルスにやられています。ガスの不調は食欲不振から来るもので、食欲不振の原因がウィルス性の病気でした」  
 「はぁ。じゃあなんか薬とかあげなきゃですか。おれは今までどおり住んでて大丈夫なんすか」  
 「そうです、薬をあげなくてはいけません。これは感染力が弱いので、他のハウススネイルに感染することは滅多にありません。ヒトにも感染しません。そこはご安心ください。ただ……」  
 「なんですか……。弱いなら大したウィルスじゃないんでしょ？"ただ"なんなんですか」  
 　もったいぶった言い方をする水野に、小山内にも事情が分からないなりの焦りが出る。  
 　「根治まで一年はかかります。それまで、餌のタブレットを抗生剤入りの特殊なものに変えなくてはいけません。定期的な注射も必要になるでしょう」  
 「一年……。母親見てきたから分かりますけど、病人の世話って大変ですよね。それが一年かぁ」  
 　口ではそう言いながらも、なんだそんなことか、と安心して胸を撫でおろす。  
 「ええ。餌を残していないか、ガスの出は悪くないか。そういった体調について、少し気を遣ってあげながら暮らしていただくことになります。……あぁ、ガスはしばらくの間はガス屋さんに頼んでボンベを使ってください。しかし一番の問題はそこではなく、治療費です。恐らく保険適用外の治療となります」  
 「保険がきかないってことですか？」  
 「そうです。感染力が弱いのであまり一般的でなく、保険でカバーされていない病気なんです。それだけにどこで感染したのかは分からないのですが……」  
 「それで、結局何円くらい必要なんですか？」  
 「概算ですが、このくらいです。データを共有します」  
 水野から『概算見積』と書かれたファイルが送られる。それを手元のスマホで開いた瞬間、小山内の顔が歪む。  
 「こんなにかかるんですか？いや、だって餌と注射と先生の往診だけでしょう？こんなん……こんなん、新しく中古買った方が安いくらいじゃないですか」  
 　ハウススネイルは宇宙外来生物だ。地球の環境に適応し、文字通り人類と共に生きてきた。しかしまだその年月は浅い。治療法が確立されていなかったり、確立していても法整備や薬の供給が追い付いていなかったりする。  
 「正直、こんな治療費払うお金はないですし、中古を買うお金もないです。例えばおれがこの家を手放したら、こいつはどうなりますか」  
 「怪我や病気で手放されたハウススネイルは住医師会とボランティア団体が保有する保護地区に送られます。多くはそこで放牧生活ですが、回復した場合はまた住宅として活躍します。まれに公共施設に転用されることもありますね。内部に別の生き物がいた方が彼らも長生きすることが分かっているので、なるべく前線に復帰できるようにしてあげています」  
 　自分が手放してもこの家が野垂れ死ぬ訳ではないと聞き、少しだけ気が楽になった。どう考えても今の自分の経済力では治療をすることは難しい。  
 「治療費が高額なのは間違いないですから、ゆっくり考えてください。また正確な検査結果が出たらご連絡しますが、誤診の可能性は恐らく低いです。それと、治療をされる場合でも手放される場合でも、昨日お渡しした問診票は必要になりますので回答をお願いします」

　水野との電話を終え、小山内はリビングのソファーに腰をおろした。  
 　家に思い入れが無いと言えば嘘になる。しかし、非正規で働いている自分が払うにはあまりにも高額な治療費と感じていた。父親が病気になり、何となく居心地が悪くなって始めたアルバイト。それもフルタイムで働いている訳ではない。相続した遺産は今後の生活費のことを考えると散財したくない。  
 　こんな経済状況で一軒家に住み続けるべきだろうか。集合住宅に移るべきではないか。そんな考えが頭をよぎる。  
 「……とりあえず問診票、書くか」  
 　面倒な将来のことを考えると気分が沈む。この状況を回避するために手を動かしたかった。  
 　重要な書類はテレビ台の引き出しにしまってある。今どき契約書などを紙で渡すケースはほとんど無いが、プリントアウトして保管するのが小山内家のルールだった。両親の使っていたスマホやクラウドサービス上のデータも、相続で権利を引き継いでいるのでアクセスはできる。しかし何を探したらよいのか分からない今は、紙の方がきっと探しやすいと思った。  
 『地球を再生させるのはもう難しいんです。コスト面を考えたら、火星に移住した方が良いに決まっていますよ！』  
 『人類をはじめ、多くの生物が暮らしてきたこの星を捨てるという考えは、私にはちょっと寂しいです。すぐに出る結果を求めるのではなく、少しずつ前に進むしかないと思います。少しずつでも、前に進む限り結果は出るはずです。地球にとって我々の存在が、寄生ではなく共生となる未来を目指すべきです』  
 　テレビは今日も火星移住の討論を流している。先遣隊によるテラフォーミングは進んでいると聞くが、民間人が住めるようになるのはまだ先の話だろう。地球の寿命も迫っていると聞くが、それもまだまだ先の話のはずだ。両陣営のコミュニケーションは難しいようである。  
 　それよりも今は問診票だと思いなおし、引き出しを漁る。最近の書類ではないはずなので奥の何十枚かをがばっと掴み上げると、小さな紙が滑り落ちた。  
 写真だ。リビングの壁で身長を測っている自分の姿だった。かつて身長を刻んだ壁には食器棚が置いてある。食器棚を動かしてみようかと思ったが、やめた。  
 　もう一度書類の束に目を落とし、後ろから一枚ずつめくっていく。ほとんどは保険などの契約書だったが、住宅手帳もしっかりと保管されていた。  
 　購入した日、購入した代理店、水道やガス機器の商品番号と工事をした工務店、ハウススネイルの個体番号など、欲しい情報はすべてそこに記載されていた。  
 　ページをめくっていくと後ろがやけに重たいのが気になったが、そこにも写真が糊付けされていた。『家と共に歩むあなたへ（写真を貼るのにご活用ください）』と印刷がある。恐らくこの手帳は、覚え書きとしてよりも客への記念品という意味合いが強いのだろう。今時わざわざデータから写真にするのはちょっとした趣味である。  
 　家の前で嬉しそうに肩を組む若かりし頃の両親、恐る恐るタブレットフードをあげる幼少期の自分、誕生日ケーキを前におどけたポーズをとる自分。そんな写真が何枚も貼られていた。さっき落ちた写真も、きっとここに貼られていたものだろう。  
 　ソファーから立ち上がる。食器棚を持ち上げてみたが、まるで持ち上がらない。腰を落として押すとわずかに動いた。少しずつ、少しずつ横に動かした。

「残念ながら、やはり先日お伝えした内容と変わらずでした。治療については、いかがされますか……？」  
 　数日後、ガレージで検査結果について水野と小山内が打ち合わせをしていた。  
 「先生が初めて来た時に、問診票渡されたじゃないですか。住宅手帳見ながらあれ書いてたら、この家とも長い付き合いだな、ってあらためて思ったんですね。それでおれ、ちょっと前まで無職で、最近アルバイト始めたんですけど、就活してみようと思ってます」  
 　小山内はぽつりぽつりと言葉を吐き出す。  
 「だから、その、両親の遺産もちょっとだけならあるし、治療受けさせたいです」  
 「そうですか！そう言っていただけるのなら、私も全力でこのお家を治させていただきます。嬉しいですよ」  
 「ふふっ。……なんか、こいつも笑ってませんか？」  
 「ええ、そうですね。小山内さんに笑いかけてますよ」  
 無機住宅の時代から、家は決して笑わない。しかし愛されたハウススネイルは家主にしばしば笑いかける。

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## ![NOVEL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/modal_title_02.png)![NOVEL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/modal_title_02_sp.png) そこにいるとか、いないとか 著者草間 小鳥子（クサマ コトリコ）

[設定画はコチラ ![](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/icon_arrow1.png) ](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/fin_item_pdf2.pdf)

　のあ、おぼえていますか。  
 　わたしの手をはらい、砂利道にこぼれる木漏れ日をたどって、まぶしい境内を跳ねまわったこと。早々に息のあがってしまったわたしは石段に腰掛け、かさつく手のひらを擦り合わせながら日差しに目を細めました。濃い緑の香りのする風が地面を撫でると松葉がはらはらと舞い、白髪混じりのわたしの前髪は踊って。五十五歳であなたを産んでからというもの、それまで見て見ぬふりをしてきた体のひずみやきしみがいっせいに鳴り出したようで、「お母さん、こっち」というあなたの呼びかけにこたえることができなくなってきたことが、こうなるとはわかってはいたものの悔しかった。  
 「お母さん、こっち」  
 　あの日もあなたはわたしを手招きし、でもすぐにわたしが膝関節を再生したばかりだったことを思い出したのか、ちいさな両手をお椀のようにしてそれを大事そうに運んできてくれました。松ぼっくりでした。  
 　虫が出てきたら怖がるだろうと帰ってからそれを鍋でぐらぐら煮ていると、のあ、あなたは「町みたいなにおい！」と両手をひろげてはしゃぎましたね。雨に濡れた樹皮のような香りは、たしかに都会的な豊かさを思わせました。都会、それはきれいな空気と水のあるところ。あなたが生まれるすこし前に予報通りひろい沿岸地域をゆらしたあの震災は、事前避難が功を奏し被害を大幅に抑えることができましたが、旧首都圏の計画解体をまぬがれた建造物をことごとく打ち壊し、二十年前のパンデミックとおなじようにわたしたちの価値転換をそれなりに促した。あらゆる地域へちりぢりになったわたしたちは、復興よりも再生、元通りではなく新たにつくり変えることを選んだのです。すなわち、海を渡る風や陽の光といったわたしたちを半永久的に裏切らないエネルギーに寄り掛かること。新しい家という家は植物と融合し、人工光合成を促す透明な皮膜（カーテン）に覆われてゆきました。  
 　わたしたちもあの頃、３Dプリンタの急ごしらえの住まいから、この新しい家への移住を決めており、しっとりと柔らかなあなたの手をひいて境内のある杜を抜け、日に日に根を伸ばし枝を張り成長してゆく新しい我が家を、散歩がてら見に行ったものです。だからあなたは、水を吸い固く閉じた松ぼっくりを手のひらにのせ、  
 「新しいおうちみたいだね」  
 　と指でつついてみせました。水に濡れると閉じる松かさが、湿度によって開閉する屋根のサンシェードのように感じたのでしょう。風通しのよい屋根の隙間からのぞく空を、あなたはとても気に入っていましたから。わたしは微笑んで言いました。  
 「気持ちよく暮らせる仕組みを、自然がひとに教えてくれたのよ」  
 　冷たい風が吹けば閉じてあたため、真夏には空いっぱいに開いて根に蓄えたトレンチから涼風を送る様子は、まるで呼吸のようでした。  
 　のあ、きっとわたしは、世の中の普通の母親よりもはやく死んでしまう。だから、わたしがいなくなったあとも、あなたを見守りともに健やかに成長する住まいの完成を急いでいたのです。「その時」は、わたしが思っていたよりもすこしだけ早くやってきてしまったけれど。のあ、やさしい子。濡れた松ぼっくりを握りしめ、茹ってしまった虫の卵のことを思い、あの日あなたはずいぶんと泣きましたね。  
 　目の前から消えてしまうことを、あなたはひどく怖れていました。  
 「あたしもいつか消えてしまうんだろうか。お父さんのように」  
 　眠れない夜、寝床に入ってきたあなたの濡れた頬をぬぐい、わたしはどんな言葉をかけたのでしょう。なぜあなたが喪失を怖れているのかわからなかった。だって、あなたのお父さんが亡くなったのは、あなたが生まれる何十年も前のことなのです。たとえ実存が失われたとしても、技術は命を継続させ得るということは、のあ自身が体現していたのですから。のあ、夫の命を奪った遺伝性の難病の治療法が開発されるのを待って——わたしの手の甲が節くれ、深い皺が刻まれるまで——凍結しておいた受精卵を戻しようやくこの世界に誕生した命。だから、あんなにもあっけなくわたしが死んでしまったことを謝らなければなりません。でもね、たとえわたしが頭の上にしっかり気を配っていたとしても、制御を失い落下した旧型ドローンの直撃を避けることはやはり難しいのです。三歳だったあなたに残されたのは、完成を間近に控えたこの新しい住まいだけでした。  
 　わたしの姪がここへ越して来て、あなたが大人になるまで育ててくれたのは幸いでした。「叔母さんの願いがこもった家だものね」姪はざらりとした樹皮の壁に手をあてて言いました。  
 「知ってる？ 思いのこもったものにはね、心が宿るの」  
 　わたしはたしかに、胸のあたりに姪の手のぬくもりを感じましたっけ。それを聞いたあなたは、空へ開いた屋根と日の光をあつめる透明なカーテンをとっくりと見渡し、それからこう呟いたのです。  
 「お母さん？」  
 　わたしはそっとサンシェードを揺らして呼びかけにこたえました。  
 　姪はたしかに、わたしが生前話した夢物語を現実のものにしてくれました。植物と人の細胞融合が成功してから３０年あまり。膝の再生のほかに使うこともないだろうと思っていた歯髄バンクに残したわたしの幹細胞をこの家の成長点と融合させることで、わたしは家そのものとなり、今この瞬間も枝葉を伸ばしているのですから。

 　あなたの手がかからなくなって姪は居を移し、あなたも海外の教育機関を卒業して日本へUターンしてからは遠い場所で働きはじめたものだから、ここはすっかり空っぽになり、わたしはただひとり森になってゆくものだと思っていました。家主がいなくなってからは、放っておくと閉じて自然へ還るようにと設計したのはわたしでしたから。だから、あなたがもう一度ここへ戻ってきてくれた時はとてもうれしかった。でもよろこびは束の間だった。ここへ戻ってきてからというもの、あなたはため息ばかりで、いつも浮かない顔をしているから。のあ、泣かないで。いくら志を持って働いてもドローンの事故死者数は減らず、あなたはくたびれ果て何も持たずに生まれ育った家へ帰ってきた。でもそれはあなたのせいじゃない。技術は時に誰かを殺すけれど、誰かを救うものにだってなるのだから。今はもう、あなたの涙を拭ってやることはできないけれど。でも、わたしが言いたかったことを、オルという子がそっくりそのまま言ってくれました。レインガーデン（雨庭）からひいた水、そしてわずかな電気と空気から生成した水で曇ったカーテンを洗いながら、オルはあなたの丸まった薄い背中に呼びかけます。  
 「のあ、今夜は点灯検査だよ。暗くなったら、吹き抜けの出入り窓から旧首都圏の方を見てごらん」  
 　オルは、旧首都圏のレジリエンスセンターに勤めています。「のあ」と呼ぶ声の調子はとても心地よく樹皮の壁に吸い込まれるので、わたしはオルのことを信頼しています。のあ、気づいていますか。一階の三和土にやってくる栗鼠や二階にある宅配便やホバーバイクの出入り窓にとまるあなたの大切な鳥たちへ呼びかける時とおなじくらいやさしい声色で、オルはあなたを呼ぶのです。あなたは気のない返事を寄越すけれど。  
 「オル、今夜は東京エリア勤務なの？」  
 「そうだよ。明日も、それから明後日もね。でも心配しないで、週末はそばにいる」  
 「そばになんていない」  
 「いるよ」  
 「ううん、いないの。これまでも、今も、これからも」  
 　のあは苛立っているようです。体のどこかが本調子でないと、ひとは苛立ちます。苛立ちは、ひとを卑しくさせます。それだけ、体と心が深くつながり合っている証拠です。わたしは枝を張り、シェードをひろめに開けて風を送り、壁で深く息をするようにまとわりつく湿気を吸ってやりました。震災前よりも日本の平均気温は１.５度ほど下がったとはいえ、この時はやや蒸すのです。ほんのちょっと風向きが変わるだけで、心持ちもまた変わるもの。あなたは何かを言いかけましたが、口をつぐみました。リビングを吹き抜ける風が、かわいた木々の香りを運んでゆきます。風もまた、樹間を渡るのとおなじように家のすみずみを清潔な空気で満たします。洗いたてのカーテンを転がる粒だった水が、葉末の露が、そそぐ日差しをはね返し、リビングはきらきらと輝く光であふれました。  
 「詩を読んだことがあるんだ、すごく昔のね」  
 　オルはあなたの隣に腰を下ろし、屋根の隙間から青空を見上げて言いました。  
 「『智恵子は東京に空が無いといふ、ほんとの空が見たいといふ』——ふるさとの山の向こうにある空が、彼女にとってのほんとの空だというんだよ」  
 　あなたは空を睨みました。小型のドローンが一機、ぱらぱらと飛んできて森の向こうにある隣家の出入り窓へ吸い込まれていきます。のあ、あなたが空を嫌いなのは知ってる。  
 「でも、もし実際ふるさとへ帰ってその山の上にある空を見上げたとして、それは求めていた『ほんとの空』ではないような気がするんだ。きっと『ほんとの空』は彼女の記憶の彼方にしかないから。ねぇ、のあ。そこに『居る』ことと、ここに『在る』ことの違いって、何なんだろうね？」  
 　あなたは手をのばし、オルの冷たいからだに触れました。休憩が終わり、オルは仕事に戻ったようです。分身ロボットの丸っこい瞳は光をうしない、反応はありません。オルは、ここから２００km離れた旧首都圏のレジリエンスセンターで働いているのです。もちろん、今この瞬間も。だからここで会話し動き回るのは、分身ロボットに入ったオル。わたしは、オルの姿を実際に見たことはないですが、あなたとのあいだに交わされる言葉を、曇ったカーテンを洗い流してくれる手を知っています。それは果たして、「ほんとのオルを知らない」ことになるのでしょうか？目の前から消えてしまうことはすなわち、「いなくなる」ということなのでしょうか？　あなたは先ほどまでオルが入っていた空っぽの分身ロボットを抱きかかえ、壁際のドックへそっと戻すと、「わからない」そうぽつりと呟いたのでした。  
 　境内の杜の向こうにあなたが見えます。あなたの向こうに空がひろがり、けむる空の向こうに旧首都圏の街並みが見えます。のあ、かつてあなたがいたオフィスビルは旧首都圏のほど近くで、屋根を開放することはできなかったけれど天井には青空を模した人工照明の天窓があなたの手元を照らしていたそうですね。ドローンやホバーバイクの飛び交うことのない、ただぽかんと雲を浮かべただけの作り物の青空を、あなたは嫌いじゃなかった。鳥がいたらもっといいのに、とあなたは幼い頃にここで迎えた雀や鳩、シジュウカラやツグミのことを思い出しました。晴れた日には、犬鷲や白い鷺も。モニターに映る派遣パイロットたちが漫然とドローンを遠隔操作するのを見つめながら、こんな人たちにお母さんの痛みがわかるものかと唇を噛み、窓を細く開けて、技術の墓場のような旧首都圏を臨んだといいます。なぜオルは棄てられた地で失われたものを丁寧に拾い上げ、あつめ、時間をかけてしらべているのか、あなたにはわかりませんでした。  
 　旧首都圏のかつてのシンボルであった尖塔を見つめ、あなたは目を細めます。あのふもとに、オルはいます。目の前から突然消えてしまうことのない、触れればあたたかく、でもきっと壊れやすい、ほんとのオルが。  
 「そこに『居る』ことと、ここに『在る』ことの違いって、何なんだろうね？」  
 　そうオルは言いました。砂利道にこぼれる木漏れ日を踏み締め、つま先を見つめ物思いにふけるように、あなたはまぶしい境内を行きました。西日に濡れた石段へ腰を下ろし、かさつく手のひらを擦り合わせながら日差しに目を細めると、濃い緑の香りのする風が松葉を散らし、あなたの前髪ははらはらと踊ります。足元に転がっていた松ぼっくりを、あなたはつまみあげました。  
 　のあ、おぼえていますか。  
 　あの日、吹き抜けの出入り窓から白鷺を呼ぼうと乗り出した瞬間おっこちて、落ち葉のコンポストへ背中からふわりと着地したこと。あの日、熱もないのに玄関のバイタルセンサーが反応したこと。不思議に思いながら出かけるのをやめて休んでいると、熱がぐんぐん上がってきたこと。あの日、夜中の大雨でうねりながら増す水かさにも気づかずすやすやと眠っていられたこと。ひろがり続ける森のように、活動データを蓄積しながら、住まいもまたあなたとともに育ってゆくこと。寒い冬にはぬくもりが届き、寝苦しい夜には涼風を受け、いつだって、気づかないうちに見えないものに守られていたこと。あなたの健やかな幸せが、ここにはいない誰かによって、だけどたしかに祈られていたこと。それらすべてが、あの失われた旧首都圏や今はもうない過疎の村々で暮らしたひとびと、もうここにはいないすべてのわたしたちが悩み、苦しみ、必死で求め、つまづき、それでもまた立ち上がり、願い、ともに考え、ついに手に入れ、そして守り続けてきたものだということ。  
 　それを、あなたたちは「データ」と呼んだり、「心」と呼んだりするようです。  
 「お母さん」  
 　あなたはつぶやき、松ぼっくりをポケットへ入れると、こちらへ向かってちいさく手を振りました。それはあまりにも些細なうごきで、誰かが見たら髪についた松葉をはらっただけのように思ったかもしれません。でも、わたしにはわかります。サンシェードをそっと揺らしてこたえると、かさこそと葉ずれの音が鳴りました。  
 　じき、日が沈みます。今夜は旧首都圏の点灯検査だとオルは言っていました。年に一度、かつて賑わっていた土地のすべての空き家の灯がともる晩。  
 のあ、帰ったら、二階へいらっしゃい。すべての屋根を開けてあげる。きっと遠景には、木々のかわりに林立する電柱や支流にわかれた国道をしずかに流れるヘッドライトが、色とりどりの町の灯が、願い星のように儚くきらきら瞬いているのが見えるでしょう。

了

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## ![NOVEL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/modal_title_02.png)![NOVEL](https://landing.lixil.com/hubfs/lixil-holyday-img/modal_title_02_sp.png) 共に育つ家 著者猫田 佐文（ネコタ サモン）

「一人暮らしがしたい」  
 　妹のみゆがそう言い出した時、兄である僕も、そして両親も驚いていた。  
 　いや、驚きというよりは心配が正しい。  
 　なにせ今年二十二歳になるみゆは生まれた時から目が見えないのだから。  
 　両親は反対したけどみゆの気持ちは思ったより固くて、結局僕が付き添いという形で内見することにした。  
 　みゆが普段使っているスマートロッドにはＡＩが内蔵されており、周囲でなにが起こっているかをセンサーで感知し、それを瞬時に分析して耳に付けているワイヤレスイヤホンへと音声で伝えている。  
 　これを使い出してから僕や両親がみゆに腕を抱かせることはなくなっていた。  
 　休日に二人で自動運転タクシーに乗って郊外へと向かう。郊外に国が補助金を出して作られたニュータウンには自宅から三十分ほどで着いた。  
 　道沿いに並ぶ家を見て僕は驚いた。一軒一軒がかなりコンパクトだ。一軒家が建ちそうな土地に三つから四つの小さな家が建っている。  
 　デザインも面白い。あれだ。雪で作るかまくらに似ている。大きいそれが三つほどくっついた形をしていた。  
 「こちらは一人暮らし用となっています。全て３Ｄプリンターによって作られているのでお値段もリーズナブルです。使用している資材は再生可能なものなので、取り壊した際に再活用できます。こちらは賃貸ですが、空いている土地を購入すれば購入者様が使いやすいようにデザインすることも可能です。こちらの区画は全てバリアフリー設計となっております」  
 　スマートカードからはＡＩの案内が聞こえた。  
 　築三十年木造住宅に住む僕からすればかなり未来的だ。  
 　杖から家のデザインを教えてもらったみゆは楽しそうに笑った。  
 「なんかすごいね」  
 「だな……」  
 　僕が圧倒されているとスマートカードから「中へどうぞ」と声がして、家のロックが開く音がガチャリとした。事前に予約していたから家のオートロックがスマートカードを関知したんだろう。  
 　このスマートカードは生体認証で本人しか使えない。万が一他人が侵入すればカードに映像が送られ、知らない人間の場合は警察に通報できる。どうやらセキュリティーも問題なさそうだ。  
 　中は意外と広く、備え付けのコンパクトな家具が置かれている。暖房も指定の温度で常に安定しているため、わざわざリモコンを使う必要もない。  
 「でも電気代がすごそうだな……」  
 　僕の不安にＡＩが答える。  
 「このスマートシティーでは街全体が発電所となっており、全ての住宅に最新の軽量太陽光パネルが設置されています。もちろんこの家にもです。作られた電気は各家庭のバッテリーに充電され、余った電気は街の地下にある大型蓄電池に充電され、雨の日や緊急時などに活用されます。そのため電気代はかかりません」  
 　街自体が発電所。進んだとは言え、再生可能エネルギーがまだまだ少ない日本では中々考えられない。  
 　僕が感心しているとみゆは杖を玄関に置いて部屋の奥へと進んだ。進行方向にテーブルが見えた僕は焦る。  
 「みゆ。前に――」  
 「テーブルでしょ？」  
 　みゆはテーブルの目前で足を止めると静かに触れた。杖もないのにどうして分かったんだ？  
 　するとまたカードからＡＩが答えた。  
 「こちらの家は障害者支援機能がついております」  
「障害者支援機能？」  
 　僕が不思議がるとみゆが振り返って微笑む。  
 「すごいんだよ。杖がなくても全部聞こえるの」  
 「聞こえるってイヤホンから？」  
 「うん。どこになにがあるか。どんな形をしててどんな機能があるか。全部教えてくれるんだ」  
 　嬉しそうなみゆをＡＩが補足する。  
 「こちらの家では視覚障害者のために作られたＡＩが各種センサーからの情報を集約し、スマートカードへと送信しております。スピーカーもありますからスマートカードやイヤホンがなくても支援機能を使用できます」  
 「へえ。杖は便利だけど家の中だと邪魔になるもんな」  
 　視覚障害者の多くが家の中の配置を記憶しているから生活はできるけど、新しく買った物などは覚えるのが大変だ。その手間が省けるのは便利そうだった。  
 　キッチンも最先端の家具が揃っている。ＩＨコンロは人感センサー付きだから火傷もしないだろうし、全自動食洗機も備え付けだ。  
 　カットされた野菜や肉、魚などをネットスーパーで買えば料理で包丁を使うこともない。  
 　鍋やフライパンを触ってしまうのは怖いけど、ＡＩがイヤホンで教えてくれるならあまり問題なさそうだ。  
 　リビングの左右は部屋になっていて、僕らはまず右側のワークルームへと向かった。  
 　そこには机と椅子があり、ディスプレイが壁に貼られている。ディスプレイにはワイヤレスでスマートカードから映像やデータが送られていた。  
 「こちらのワークルームでは自然光を特殊なガラスで調節し、常に適度な明るさに保っています。晴れている日の日中であればライトや空調は必要ありません。こちらの机やその他の家具も角を丸くしており、素材もソフトなものを使用しているので怪我の心配も少なくなっています」  
 　目が見えないとちょっとしたところでぶつけて怪我をすることがある。昔のみゆは傷だらけだった。  
 　だけどこの家はそれをきちんと配慮していて安心できそうだ。  
 　みゆはさっそく椅子に座ると机に触れた。  
 「ここならお仕事できるね。入るところのドアも広くて自動だし」  
 「そうだな」  
 　みゆは聴覚障害者用のサイトでライターの仕事をしている。同じ障害を持つ人達に役立つ情報を調べ、それをなるべく自分で体験して記事にしていた。記事は全てＡＩ音声が読み上げてくれるので誰でもアクセスできた。  
 　今回も取材の一環だと思っていたけど、それだけじゃなくて本気で住む気らしい。  
 　最後に寝室へと向かう。ベッドの他にタンスと鏡もあった。  
 「こちらのタンスは脱衣室の洗濯乾燥機と繋がっており、脱いだ服を洗濯、乾燥した後に折り畳んで入れておきます。着る際は口答で指定された衣服が自動で取り出せるようになっております。それを着て鏡に映るとボタンのかけ間違えや裏表の間違えなどをお伝えします。この部屋から出る時には必ず鏡の前を通るので外出する際や友人が訪ねてきた際も心配ありません」  
 「僕も使いたいな。Ｔシャツとか前と後ろ逆で着ることも多いし」  
 　みゆは面白がった。  
 「お兄ちゃんおっちょこちょいだもんね」  
 　みゆは笑いながらベッドの感触を確かめる。ベッドに使われている素材も柔らかく、ぶつかっても大丈夫そうだ。  
 　トイレも風呂も全自動で洗ってくれるし、いざとなればＡＩが二十四時間ヘルパーを呼んでくれる。  
 　僕は技術の進歩と恩恵をしみじみと感じていた。  
 　僕らはまたリビングに戻ってきた。すると奥のカーテンが開いて別の家が見えた。  
 「あちらの家は聴覚障害者用となっており、様々な音がスマートグラスへと表示されます。その横の家では四肢が不自由な方を自動車椅子が移動を手助けし、レンタルロボットが身の回りをサポートをしてくれます」  
 「みんな一人暮らしなんですか？」と僕は尋ねた。  
 「はい。障害者が一人で暮らせる家がここのコンセプトですから」  
 「すごいな」  
 　僕が素直に感心しているとみゆが笑いかける。  
 「ね？ ここなら大丈夫でしょ？　だからお父さんとお母さんを説得するの手伝って」  
 「う～ん。でも大丈夫か？」  
 「なにが？」  
 「一人で寂しくないか？」  
 　みゆはむっとした。  
 「もう。いつまでも子供扱いしないで！」

 　帰りのタクシーは僕一人だった。  
 　みゆはあの家に一泊していく予約をしていたらしい。  
 「一人でも大丈夫だって証明してみせるから」  
 　本人はそう言ってたけど僕はまだ心配だった。両親は更に不安そうだ。  
 「どうだった？」  
 　家に帰ると父さんは心配そうに聞いてきた。  
 「どうって、映像は送っただろ？」  
 　あの家で説明されたことは全てスマートカードに記録されていて、ＡＩがそれをショートムービーに編集して両親へと送っている。  
 「そうじゃなくて」と母さんは言った。「あの子本当に一人暮らし始める気なの？」  
 　二人が気になるのはそのことみたいだ。二人とも生まれつき目の見えないみゆをずっと世話して生きてきた。  
 　いくらテクノロジーが進歩しても親の心配は変わらない。だがそれが逆にみゆを一人暮らしへと向かわせたのかもしれない。  
 　障害者のサポートは簡単じゃない。それはサポートする側だけじゃなく、される側もそうだ。そんなそぶりは見せないけど、みゆもそれなりに気を遣っていただろう。  
 「みたいだな。あとで料理を作るから写真を送るって言ってたよ」  
 「大丈夫かしら……」  
　母さんは随分心配そうだ。  
 「大丈夫だよ。怪我はしないように工夫されてたから」  
 「そうじゃなくて……。あの子、盛りつけ下手だから……」  
 「……そこはまあ、しょうがないだろ」  
 　あまり期待はしないでおこう。  
 　そんな予想を裏切り、送られてきた写真に写る夕食はかなり綺麗に盛りつけられていた。パスタとサラダ、そしてスープがきっちりと並べられている。レシピや盛りつけもＡＩが教えてくれたらしい。  
 　仕事も食事も風呂も洗濯もトイレも問題なし。  
 　寝る前のビデオ通話でそう説明すると両親は感動していた。僕も思わずうるりと来る。  
 「おやすみなさい」  
 　パジャマ姿のみゆが楽しそうにそう言うと、ビデオ通話はそこで終わった。

 　夜。僕は実家の自室に布団を敷き、そこで横になって考えていた。  
 　先を越されたな……。  
 　二十五歳になる僕だって一人暮らしをしたくなかったわけじゃない。だけど高齢出産でみゆを生んで育てた両親と妹を全く気にしないほど薄情でもない。  
 　結局地元で就職し、実家から仕事場に通っている。父さんもみゆがいるから転勤などは全て断っていた。家が変わってしまえば目の見えないみゆはまた一から覚え直さないといけなくなる。  
 　僕も両親もみゆを重荷に感じてるわけじゃない。特に僕は物心ついた時には目の見えない妹がいるのが普通だった。  
 　だけど知らず知らずの内にみゆのための選択を取ってきた。  
 　きっとそれはみゆにとっても負担だっただろう。もちろん、それを言うことはないだろうけど。  
 　テクノロジーの進歩で障害者はそのハンデを随分と縮めてきた。パラリンピックなんかを見れば分かるけど、健常者よりよっぽど優れた人達もいる。  
 　だけど日常生活ではまだまだ不便なことも多い。だけど家が家族やヘルパーの代わりをしてくれたら、そう感じることも随分減るだろう。  
 　そしてなにより僕らがみゆを手助けしないことがみゆのためにもなる。気持ち的にも、経験的にもだ。  
 　僕らは自分の時間が増え、みゆは自立して自信を深める。  
 　だからこれはきっと正しくて、良いことなんだろう。  
 　でも、少し寂しくもある。  
 　そう思って僕は気付いた。  
 　僕はみゆを世話しているんじゃなくて、させてもらってたんだと。それが要らないと言われたから寂しさを感じている。  
 　なんてことはない。自立できてなかったのは僕の方だったんだ。  
 　それが分かると僕は苦笑して、そして妙な安心感に包まれて眠りについた。

 　翌日。  
 　僕は昼頃に無人タクシーを使ってみゆを迎えに行った。  
 　チャイムを押すと中から不満そうな妹が出てくる。  
 「もうちょっと遅くてもよかったのに」  
 「悪かったな」  
 　どうやらここでの生活を楽しんでいるみたいだ。  
 　片付けをするつもりだったけど、街からレンタルしたロボットがやってくれるから要らないみたいだ。  
 　帰りのタクシーに乗るとみゆはずっと窓の外に顔を向けていた。  
 　僕はみゆに尋ねる。  
 「朝ごはんは食べたか？」  
 「うん」  
 「着替えは一人で大丈夫だったか？」  
 「うん」  
 「なにか困ったことは？」  
 「べつに」  
 　たった一晩一緒にいなかっただけでみゆが随分大人びて見えた。  
 　みゆは窓の外を向いたまま告げた。  
 「あのね。あそこに住むと匿名でデータが取られるんだって」  
 「データ？」  
 「そう。わたしの場合、視覚障害者の生活データ。それがビックデータに蓄積されて、ＡＩが学習するの。そうなればまた新しいサービスができて、それをわたしと同じ障害を持つ人達に活かされる」  
 「へえ。じゃあ、あの家も」  
 「そう。成長するの。わたし達と一緒に」  
 「成長か……」  
 　共に成長できる家。  
 　それが一番いいのかもしれない。みゆにとっても、僕らにとっても。  
 　父さんと母さんはまだまだ心配そうだったけど、みゆから感じる決意は固かった。  
 　僕は窓の外を眺めた。あの家がある最先端の街は今も尚成長を続けている。  
 「……たまには帰って来いよ」  
 「……うん。分かってる」  
 　僕らを乗せた無人タクシーは静かに前へと進み続ける。

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